ジェネシス(創世記)

宇宙ステーションは下層軍人、火星居住区には政府軍が滞在している。私は、軍事政府の要人らと交信した。争うのは止めよう。争っている場合ではない。

私は和平を試みた。確かにユダ人を奴隷として働かせ、残虐した行為は許しがたい。しかし悔い改めるのであれば、ユダ人は彼らの迫害行為を許すと、約束させた。憎しみを抱くことをやめさせた。

 私の次女も彼らに殺された。憎しみが憎しみを増す。憎悪を伴った状態では、何も進展しない。交渉は不可能だ。

どこかで、「憎しみの連鎖」を断ち切らなければならない。私もユダ人にとっても、それが「今」なのだ。みんな感情を、押し殺した。

 政府関係者もユダ人の人権を尊重し、二度と迫害を繰り返さないと誓った。火星に私たちの居住地を認めさせ、協定を結んだ。今は敵味方もない。残されたわずかな人類で、団結しなければならないのだ。

 私たちはそう言い含めて彼らを許し、隣人を愛することに努めた。もし彼らが悔い改めなければ、私たちは戦うことになる。それ以外に選択の道はない。私たちには、「主」が見守っておられる。

 彼らは現状を把握し、軍事職を自ら解雇した。交信を重ねながら、選挙を実施し新しい「大統領」を選んだ。宇宙を漂いながらも、一つの国家が築かれた。「マーズ(火星)民主共和国」だ。

 全人類の代表者は、民間人であるクリストス教徒から大統領が選出された。ここに、民主主義(国王や軍人たちに代わって、国家の権力を人民が所有しそれを行使すること)が戻った。

一致団結すれば、まだ、未完成な火星でも生活できるだけの環境に変えられる。それが私たちの使命だ。あとは子孫たちに、その希望を委ねるしか方法はない。人類を、死滅させるわけにはいかないのだ。

「旅人と わが名呼ばれん 初しぐれ(松尾芭蕉)」