無理をしていたのだろう。
酒の力を借りなければふだんを装ってわたしと接することができなかったのだ。
それも足元がふらつくくらいまで、自分がわからなくなるくらいまで酔わなければとてもやっていられなかった。
兄の心情を思えば当然だろう。
客人の奥方たちがかたしていった居間はほとんど元通りだった。
ずれた机とカーペットを直して窓を開けた。
酒臭いこもったにおいを一気に外へと飛ばす。
台所のシンクに重ねられた汚れた食器に目をやりうんざりした。
みんな勝手がわからないだろうからそのままにしていてくれと頼んだ。
……しかし、一人分に慣れているわたしにとってこの山積みは触れるに耐えないものだった。
――…………はあ。
ひとつ深くため息をついてわたしはキッチンを出た。
廊下へと進み隣の仏間に足を踏み入れた。
遺影の前で立ち止まり顔を上げた。
写真の真由と目を合わせる。
そのままその場に座り込んだ。
「……つかれた」
いろんなことに。
お手上げだと言いたいくらいすごく、つかれた。
呟いたら一気に喉のあたりが熱くなった。
真由から視線をそらしたらぽたりと目からなにかがこぼれた。
指で触れるとそれは生温かくて、涙だとわかった。
止まらず流れては落ちる涙。
わたしは拭うことをあきらめた。
手を上げる気力もない。
すべてを投げ出したい。
どうしようもない心を放棄してしまいたい。
そんなことは出来ないと、わかっていても思ってしまう。
襖に背中を預けた瞬間、喉の奥が震えた。
嗚咽が漏れて唇を噛んだ。
「……まゆ、わたしは」
わたしはどうしたらいいんだ。
これから、どう彼らと向き合っていけばいい。
わからない。
わからないよ………――