まさか――あるわけがないだろう。
わたしは笑って、開いていた手元の本を閉じた。
こんなことを考えてしまうなど、わたしはどうかしている。
姪が向けたわたしへの視線は、女がときおり見せる母性愛の一種だろう。
なにを真剣になっているのか。
一瞬でも焦りをおぼえた自分が恥ずかしい。
ふと、もうボケがはじまったのだろうかなどと考えた。……恐ろしいな。
異性に抱く感情ではないかなどという答えに、ほんのすこしでも思い当たってしまったわたしはなんて愚かなのだろう。
冷静に考えていること自体間違っている。
あり得るはずがないのに。
わたしはかぶりをふって立ち上がった。
本を棚に戻し入れ、お茶を淹れようと廊下に出た。
おしゃべりはまだまだ終わらない。
それにしても。
――一花ちゃんも、ずいぶん大きくなったものだな……。
昔はあんなにちっちゃかったのに。
年が経つのは早い。
とくに30を越えたあたりからは急速にスピードが増した気がする。
姪のことはもちろん産まれたときから知っているが、子供というのはいつの間にと思うほど短時間で成長してしまう不思議な生き物だ。
高校二年生になったと言ったか。
一気に大人びたものだ……。
「――義兄(にい)さん」
不意に少年の声が耳朶を打ち、顔を上げると、窓の向こうにジャージ姿の青年が立っていた。

