泣いたら、泣くから。



 ここまで来て姪の感情が偽りのものだとはわたしは思えなかった。両親の前で冗談にならない嘘をつけるはずがない。

 姪はわたしを想ってくれている。そして、





 ――…………わたしの存在が姪を苦しめている。





 細い指はシワが出来るほど強くわたしのシャツを掴んでいた。わたしはその上から手を重ねた。
 姪の指先がぴくっとして同時に顔が上がり目が合う。「お、叔父さん……?」



「どうしたの叔父さ――」
「兄さん、春乃さん、ごめん。俺が悪いんだ。俺がちゃんと一花ちゃんを説得できなかったから。悪いのは全部俺なんだ」
「ちがう! 悪いのは私で、叔父さんはちっとも悪くなんかない」


 大粒の涙を溢れさせながら姪は首を振った。しかしわたしはそれを遮り手を離させると、姪の前に出た。




「殴るなら殴ってくれ。二人の大事な一花ちゃんを苦しめた罰を受ける」
「叔父さん!」
「……いい覚悟だ、恭介」




 じりと兄がわたしのほうへにじり寄ってきた。

 握りしめた拳がふるえている。力が込められている証拠だ。


 
 あれじゃ一週間は腫れたままだなと胸の内で苦笑する。


 だが、仕方のないことだ。



 
 ……これ以上姪を傷つけないようにするには、わたしとの交流を完全に断ち切らせる必要がある。
 両親という城壁に囲ませることでわたしのところに来られないようにするのだ。


 姪に、わたしを忘れさせること――それがもっとも最適な方法。



 今だけはすこし、苦しんでくれるかもしれない。
 けれどそれは一時のものだろう。
 姪の中からわたしを消すためには距離と時間が必要だ。


 そのための痛みなら今は甘んじて受けよう。

 わたしの我慢で姪が涙を流さなくなるのなら安いものだ。



 わたしは目を閉じた。



 ひゅんとなにかが飛んでくる音がしてぎゅっとまぶたに力を込めた。



 しかし直後、




「きゃあぁああぁああ――――――――――――!!!!!!」

 春乃の絶叫がその場に満ちた。