わたしと、一緒にあの町へ帰ろう。



 次の瞬間、一花の目から大粒の涙が一つ落ちて浜に黒い染みを作った。

 泣く私を、叔父はやわらかい視線で見守る。優しすぎて、逆に涙が止まらない。

 
 言いたいことはたくさんあるのに、唇が震えて、うまく言葉が出てこなかった。


 嘘じゃないだろうか。
 夢ではないだろうか。


 叔父が目の前にいることすら、偽物の現実ではないかと思えてしまう。


 すべてが真実だと、自分を納得させたくて一花は自分から叔父の胸にしがみついた。
 そんな姪を、叔父はしっかりと受け止め、抱きしめる。


「ほんとに、いいの……?」


 私なんかで。
 姪の私などで、本当に―――。


 すると、叔父はなにを今さらというようにふっと微笑み、


「一花ちゃんに、そばにいて欲しいんだ」


 そう言ってぎゅっと腕に力をこめると、もう一度そっと一花を胸から離し、叔父は顔を傾げた。
 直後、
 今まで感じたことのないやわらかさが額に触れた。
 

「お、じさん」


 叔父の顔が離れた瞬間、ぼっと火がついたように顔が熱くなった。
 とくに、唇の当たった額の部分が。

 一花は、膝のから崩れ落ちそうになるのをなんとか気力でふんばった。けれど、熱に浮かされているように体がふわふわして落ち着かない。



 叔父がすっと手を差し出した。



「行こう。――――――一花」