―――ごめんね。

 叔父のささやきが耳朶をくすぐる。同時に全身にかすかな痺れが走った。

 ああこの声だ。
 ずっと聞きたかった大好きな声。
 忘れた日なんかなかった。ずっと、ずっとずっと聞きたくてしょうがなかった。

 叔父の声に、一花は強ばっていた体から力が抜けていくのを感じた。


「ううん」
「一回忌が済んで、ようやく会いに行く決心がついた。遅くなって、本当にごめん」


 額を押し当てたまま、一花は首を振る。
 と、ぎゅっと、腕に力がこもった。

 叔父の鼓動が、聞こえた。


「来てくれただけで嬉しいよ」


 また会えた。
 そして、
 また触れることが出来た。

 それだけで、幸せだと、心の底からそう思えた。


「一花ちゃん」
「なに?」


 ふっと、体が離されて、腹に冷たい風が当たった。

 見つめる叔父の顔は真剣だった。
 
 恥ずかしさを、今だけはぐっと押し込めて、一花は叔父の目を見つめ返した。

 沈黙が落ちる。見つめ合う間、そこだけ世界が切り離されたように周りの音が聞こえなくなった。





「―――一緒に帰ろう」