「―――そういえば」

 
 美里が口を開く。「そういえば一花はどうしたのよ」


「どうって?」
「恭介さん、だっけ? 好きな人がいるって言ってたじゃない。すごく年上の」
「美里ちゃんほどじゃないけど」
「16違うんだっけ? 四捨五入したら一緒よ」
「それはずいぶんじゃない?」
「じゃないじゃない。で、どうなわけ? 上手くいった?」


 美里の問いに、一花はしばし黙り込んだ。

 どう言えばよいのか、わからなかった。
 上手くいったような気もするが、でも、いってないような気も―――いやいや、いってないわけではと思うけれど―――うーん、なんとも微妙なラインである。

 迷った末、「返事待ち」と返した。


「いつ告ったの」
「正式には去年の今頃」
「一年も待ってんの!?」
「それほどじゃないよ。好きって理解してもらうまで一月ちょっとくらいかかったから」
「それでも一年弱は待ってるわけでしょ。いつまで待たせんのその男。ずいぶんじれったいやつなんだね。順也さんなんかすぐOKだったけどなぁ」
「OKしてくれないなら死んでやるって夜中の三時に叫んだのどこの誰よ」
「あれ? そういえばそんなこともあったかもね~あはは~」


 ……呆れた。

 警察まで巻き込んで大騒ぎしたくせにころっと忘れるなんて、ある意味病気だ。
 もしくは、特技ともいうのだろうか―――どちらにせよ、まったくひと迷惑な話である。

 呑気に笑う従姉にため息の一つもこぼしてやろうかと思っていたそのとき。「―――おーい、美里ー」


 背後から飛んできた低い声は美里の旦那、順也のものだった。


「はーい―――って、あら? 隣の人は誰かしら」


 振りかえる美里につられ一花も後ろを向く―――向いた瞬間、思わず目を疑った。