まだ寒さが残る春。
駅まで歩き、電車を使って町の最北端へ行ってみようと思った。
電車を待つ間、自動販売機で無糖の缶珈琲を購入し、ボーと向かいのホームを眺める。
老人が横のやんちゃそうな高校生をジッと見つめていた。
会社に向かう時は向かいのホームではなく、腕時計しか見ないから新鮮に思えた。


電車を降りるとのどかな田舎町が広がっている。
来たことがない町の最北端。
何故だか無性に懐かしく感じる部分がある。
目的など無いはずなのにどこかへ向かう。
交通量の少ないこの道路も見覚えがある。
ここで抑えられない程の不安と絶望を感じたのを覚えている。
少し先にあるバス停で大切なモノを失った記憶も…。
よく考えてみると、過去の記憶でみた家意外はハッキリしていない。
帰り道での会話は覚えているが帰路は感覚だけしかなく、冬に彼女を連れて親を紹介した時もいきなり玄関だった。
いくら思い出そうとしても記憶がないのならこの懐かしい感じの甘く切ない気分を楽しもうと思い、覚えている場所を目指して歩いた。