波の音と月明かりが悲しみを増大していく。
終電車はとっくに通り過ぎ、ちらほら聞こえていた人の声は長いこと聞いていない。
腕時計の針は深夜三時十五分を指していた。
臀部(でんぶ)についた砂を叩き、家を目指して歩いていると、道路に人だかりができている。
何事だと思い、少し覗いてみた。
そこには大量の血を流して倒れている彼女の姿があった。
恐る恐る近寄り、話しかけてみた。
「大和…君…やっと…見つけた……ごめんね…」
苦痛の表情を浮かべる彼女に僕は為す術がなく、ただ傍に居る事しか出来なかった。

野次馬の一人が救急車を呼んでくれていたお蔭で早いこと病院へ搬送してもらえた。
風前之灯火の最中、彼女の目から流れた涙は何を伝えようとしたのだろうか。

集中治療室前の長椅子に腰を掛け、落ち着かなく待つ。
普段なら何時間でもじっと待っていられるのだが、心境が変わるだけでこんなにも違う。


カーテンを開ける音で彼女を起こしてしまった。
ごめんねと呟き、新しいタオルで額を撫でる。
彼女は僕の手首を優しく掴み、自分の心中を話し始めた。