「その力は一度きりのものでね。奴はそれを使う気はなかった。それでも使わなければならない状況に立たされて仕方なく私に使ったという訳だ」

「ふーん?」

「そういう人間の事をミッシング・ジェム呼ぶ」

 人類の歴史に埋もれた存在。それは力を持つ者にも適用される言葉だ。

「だが奴にはもうその力は無い」

 追われる心配はなくなったのだ。そう言ったベリルの目に少年は優しさを見て取った。

 自分が死ねない体になった事よりその人が追われなくて済む事に安心している。

 元々、数多くの人種から摂取されたヒトDNAをつなぎあわせて造られた『キメラ』であるベリルは、すでにミッシング・ジェムだといえた。

 彼がキメラである事を知る者は数人のみだ。

 知られれば彼を造ったA国──アルカヴァリュシア・ルセタから追われる事になる。

 傭兵という仕事に長生きは望めないという安堵感は、不死になり崩壊した。

 誰にも告げる事のない秘密をベリルは永遠に背負い続けなければならなくなったのだ。