ピ、ピ、ピ、と、規則正しい無機質な音が響く。仰々しい機材に取り囲まれるようにして眠るのは、世の理を乱す秘匿の少女。
「お母さん」
怒りでもなく、責めるでもでもなく。ただ〝母〟を呼ぶ声に胸が潰れそうになった。流されてはいけない。腕に挟んでいたカルテを静かに机の上に置いて目を伏せる。遂に、この時が来てしまった。
「皆の前で喋ったらいけんって、あれほど言うてたやろう?」
娘の姿と、そのクラスメイト達の姿を確認してうっそりと微笑む。何をしに来たのかなんて聞かなくてもわかっている。
壊しに、来たのか。
最低限の光しか引いていない洞窟のなかは、薄暗くて気味が悪い。それに加えて〝アレ〟の存在は子供達にとっては脅威だろう。
「生け贄、何で独りか全員かわかる?」
耳障りなヒールの音を鳴らしながら、距離を詰めていく。
「独りを生け贄にしたら、残りの子はその罪悪感から秘密を漏らさんのんよ。でも、独りを選ぶことが出来んかったら?」
鳴り止まない不快な音に、子供達が一歩、二歩と後退した。
「秘密を知られとる以上、死んで貰わんといけんよな?全員に」
自分でもゾッとするほどに冷たい声が吐き出され、心臓の奥の奥、一番深い場所にどろりと血が流れた。私はもう、本当に駄目なのかもしれない。ごめんなさい、薫。ごめんなさい、洋一さん。
何も、わからないの。
『美夜!もうこんな事は終わらせよう!こんなの誰も喜ばない!』
――フラッシュバック。
何も知らない、遠くの土地から婿に来てくれた洋一さん。心優しい彼は秘密を知ってしまった時、私を止めようとしてくれた。
『この村は、可哀相です』
私に自分の身元を隠すことなく、真正面からぶつかってきたジャーナリストも居た。その瞳は、洋一さんと同じものだった気がする。
ワカラナイ、ワカリタクナイ。
覚えているのは空になった注射器と、数分前までは人であったはずの〝ナニカ〟だけ。ああ、そうか。私は人を殺したんだ。殺してきたんだ。彼らだけじゃない。ずっと、子供達も。
「お母さん」
怒りでもなく、責めるでもでもなく。ただ〝母〟を呼ぶ声に胸が潰れそうになった。流されてはいけない。腕に挟んでいたカルテを静かに机の上に置いて目を伏せる。遂に、この時が来てしまった。
「皆の前で喋ったらいけんって、あれほど言うてたやろう?」
娘の姿と、そのクラスメイト達の姿を確認してうっそりと微笑む。何をしに来たのかなんて聞かなくてもわかっている。
壊しに、来たのか。
最低限の光しか引いていない洞窟のなかは、薄暗くて気味が悪い。それに加えて〝アレ〟の存在は子供達にとっては脅威だろう。
「生け贄、何で独りか全員かわかる?」
耳障りなヒールの音を鳴らしながら、距離を詰めていく。
「独りを生け贄にしたら、残りの子はその罪悪感から秘密を漏らさんのんよ。でも、独りを選ぶことが出来んかったら?」
鳴り止まない不快な音に、子供達が一歩、二歩と後退した。
「秘密を知られとる以上、死んで貰わんといけんよな?全員に」
自分でもゾッとするほどに冷たい声が吐き出され、心臓の奥の奥、一番深い場所にどろりと血が流れた。私はもう、本当に駄目なのかもしれない。ごめんなさい、薫。ごめんなさい、洋一さん。
何も、わからないの。
『美夜!もうこんな事は終わらせよう!こんなの誰も喜ばない!』
――フラッシュバック。
何も知らない、遠くの土地から婿に来てくれた洋一さん。心優しい彼は秘密を知ってしまった時、私を止めようとしてくれた。
『この村は、可哀相です』
私に自分の身元を隠すことなく、真正面からぶつかってきたジャーナリストも居た。その瞳は、洋一さんと同じものだった気がする。
ワカラナイ、ワカリタクナイ。
覚えているのは空になった注射器と、数分前までは人であったはずの〝ナニカ〟だけ。ああ、そうか。私は人を殺したんだ。殺してきたんだ。彼らだけじゃない。ずっと、子供達も。