生け贄、独り。



「皆は、どう考えとるん?」

吐き出す息は白く濃く、鼻の頭は赤く色づく。キラキラと眩い光を放つ新雪の上に足跡をつけながら、私は何気なく尋ねてみた。

キャラ変どころの騒ぎではない私の豹変ぶりに、皆は最初こそ戸惑いの色を隠せていなかったけど、今はもう全くの別物だ。

改めて一人一人の目を見た。その奥にあるのは、揺るがない気持ちと決意なのだろう。誰一人、目を逸らしたりなんてしなかった。

決まった。決まったよ。

私は、ここに居る十四人の仲間達と新しい未来を切り開いていく。その為に、母と蛍さんを解放してあげるのが私の、私達の役目。

もう、誰も悲しい思いをしないようにと願うよ。

誰ひとり生け贄になんてさせやしない。皆で生きて行くんだ。それぞれに思う未来へと向かって。私達ならきっと出来る。

「終わらせよう、皆で」

ぐらぐらと不安定に沈む足元から攫われないように、踵に力を込めて背筋を伸ばす。単なる独り言として捉えてくれて良かったのに、返されるのは空に登る太陽よりもあたたかくて眩しい確かなもの。

「桜木は一人で溜め込み過ぎやろう。終わったらもっと馬鹿みたいな話をみんなでしような」

いつも人を優しい気持ちにしてくれる桂木君。そんな彼に続けと言わんばかりに、たくさん声をかけられ、手を差し伸べられた。

「ほんまそれなー、青春やり直さんと!」
「タコパやろや、タコパ!」
「え、それちょっと古うない?」
「じゃあ花見は?」
「お、花見ええな!高校の制服の見せあいっこもどうや?」
「それええかも!」
「ね、そうと決まったら」

「「行こう、薫ちゃん!」」

冷えた指先が嘘のように温かくなる。人ってこんなにも温かい生き物だったんだね。知らなかった。知ろうとしなかった。きっとあの人達も。もし、もしも、知ろうとしていれば、なんて。

「……ありがとう」

舌から零れ落ちた言葉は、キンと冷えた空気と共に溶けていった。

さあ、最後の仕事をしよう。幸村と桜木、そしてこの村最大の秘密が眠る場所へと行こうじゃないか。蛍さんが居る、場所へと。



(もう少しだけ待っていて)

桜木家の裏の雑木林を抜けたところにひっそりと存在する洞窟。そのなかに母と蛍さんが居る。気取られないようにその洞窟の傍に灯油とガスマッチを用意した。それを使って何もかもを灰にしよう。

よく、夢をみていた。悲しくて儚い夢を。

自分と同じ歳ぐらいの女の子が二人、いつも楽しそうに遊んでいて、笑い合っている。けれど、いつしか二人は離れ離れになり、お互いに泣いているというもの。――そして一人の少女は言う。

『彼女のもとに行きたい』と。

それが願いなのであれば、私は叶えてあげたい。彼女を送り出してあげたい。幸村と桜木の血を引いている、私の唯一無二の使命。