生け贄、独り。

遂に、私の秘密を明かす時が来たようだ。

黛君に言われなくても同じく〝今日〟すべてを終わらせる気でいた身としては、何というか先に仕掛けられてムカツク、みたいな?

「よっし、じゃあ行こうか」

急に流暢に喋りだす私に、皆の視線が集まる。それもそうだろう。我ながら惚れ惚れするほどに完璧な演技をしてきていたのだから。

「……薫ちゃん?」

不安そうに視線を彷徨わせ、美月ちゃんがゆっくりと立ち上がる。

(ごめんね)

「質問は歩きながら受けるけん。先生、鍵開けて貰えますよね?」
「………いや、それは、」
「母の指示です」

何て、嘘。これは私の単独行動。でも、今この場所から抜け出すには母の名を出すしかなかった。〝儀式〟の最高責任者である母の。

自分の母親がこんな馬鹿げたものに関わっているなんて思いたくもない。思いたくもないけど、変えようのない事実でもある。

私の身体のなかには幸村の血が流れている。

即ち母にも幸村の血が流れているわけで、必然的にアレを仕切る事になっていた。そう、私の祖父は〝幸村(ゆきむら) (つばめ)〟。幸村蛍の実兄だ。

あの惨劇の後、回復した私の祖母――桜木紫乃は、どういった経緯からか幸村の人間と夫婦(めおと)になった。そうして幸村の姓を捨てた祖父は桜木を名乗り、そのままこの村に潜んだという。

幼い頃に一度だけ聞かされた全ての話、全ての真実。

一言一句覚えているわけではないけれど、大体のことは頭に入っている。だからこそ、私の代で止めたいと思った。母はもうどうしようもないぐらいに取り憑かれてしまっている。幸村の亡霊に。

終わりにしよう。なにもかもを。そしてそれが出来るのは、次期最高責任者に指名される私の役目。私の、ね。

『外では上手く喋ったらいけんよ?そうせんと薫の心臓が持っていかれるかもしれんけんね。お母さんとの、約束や』

ずっと疑問だった。どうして喋ることを禁じられなければならなかったのか。でも、今ならわかるよ。大人達の態度に出てる。

桜木の姓と、言語障害、加えて〝心臓〟の病気。

この三つから連想されるのは、村が犯した過去の咎と今猶(いまなお)続く儀式。そして関係者であること。更には無言の圧力でもあったのだろう。万が一、生け贄選出の際に私が選ばれそうになったら、心疾患を理由に逃げ道を作れるようにと、教師に向けられたメッセージ。

そんなもの、クソ喰らえだ。けれど役に立っていたこともある。私は今まで病弱で立場の弱い者の振りをしながら観察をしてきた。

生かすべきか、殺すべきか。

こんな腐った人間達の集まり、いっそ全てを無にした方がいいのではないのだろうか。そんな疑問を強く抱くようになった。

だから自分達の選択の時、決断をしようと考えたのだ。

この村にあるのは絶望か、新しく切り開かれる未来か。それを同級生達に委ねることにした。賭けてみたいと思った。――そして。