――ガシャン!
ひときわ大きな物音に、遠退いていた意識を手繰り寄せる。
今はあれやこれやと考えている場合ではない。そう、私達は慣れているはずでしょう。最悪で、最低な別れに。だから大丈夫。
「お父さん!」
わざと大声を発して自分の存在を〝この場〟にまざまざと明かした。たとえ突き刺さる憎悪に圧し潰されそうになったとしても。
「……お前が」
「これが、例の、」
「物の怪の類やろうか」
ああ、痛いなあ。心が、胸が、痛い。
「出て行きますから」
ぎゅっとワンピースの裾を握り締め、なんとか言葉を紡ぎ出す。これ以上怒らせないように、下手に刺激をしないように気を付けて。
この土地も、駄目だった。ここなら大丈夫だと思っていたのに。
「………蛍」
お父さんの声が聞える。悲しそうな、泣き出しそうなか細い声。
「ホタル、見たかったなあ」
ふと、紫乃ちゃんと交わした約束が脳裏を過った。友達なんて出来たことがなかった。普通に接してくれる子なんていなかった。
私の、初めての友達。
けれど、その友達と家族を傷付けたのは他でもない自分だ。
「っ、いた…」
額に感じた鋭い痛みと、皮膚を伝って落ちていく生暖かい液体。足元には尖った石が転がっており、白いワンピースは点々と赤く染まる。耐え切れずぐしゃりと顔が歪んだ。それが、合図となった。
「化け物!はよお出てけ!」
「そうじゃ!出てけぇ!」
「この村から今すぐ立ち去れえ!」
躊躇なくぶつけられる石や泥、そして残酷な言葉。
「…ぅ、ふ…うぅ…ゔ……」
慣れていたのに。慣れていたはずなのに。どうしたって涙が止まらない。滲む視界の先には見覚えのある人達もいた。いつも笑顔で話してくれていたおじさんに、おばさん、おじいちゃん。
もう、私は〝異端者〟なんだね。誰からも受け入れて貰えない。誰からも笑いかけて貰えない、哀れな子に戻ったんだ。
「止めろ!娘には手を出すな!!」
ゆらりと大きく身体を左右に振り、お父さんが傘立てから一本の番傘を抜き取る。その瞬間、引き攣ったような悲鳴が上がった。
「む、娘が娘なら、親も親やわ!」
「私のことはなんとでも言うがいい!だが娘に罪は、ない!」
傘を振り回しながら裸足で外へ飛び出すお父さんと、鎌や斧を振り回す村の人達。違うよ。こんなの、望んでいない。
ひときわ大きな物音に、遠退いていた意識を手繰り寄せる。
今はあれやこれやと考えている場合ではない。そう、私達は慣れているはずでしょう。最悪で、最低な別れに。だから大丈夫。
「お父さん!」
わざと大声を発して自分の存在を〝この場〟にまざまざと明かした。たとえ突き刺さる憎悪に圧し潰されそうになったとしても。
「……お前が」
「これが、例の、」
「物の怪の類やろうか」
ああ、痛いなあ。心が、胸が、痛い。
「出て行きますから」
ぎゅっとワンピースの裾を握り締め、なんとか言葉を紡ぎ出す。これ以上怒らせないように、下手に刺激をしないように気を付けて。
この土地も、駄目だった。ここなら大丈夫だと思っていたのに。
「………蛍」
お父さんの声が聞える。悲しそうな、泣き出しそうなか細い声。
「ホタル、見たかったなあ」
ふと、紫乃ちゃんと交わした約束が脳裏を過った。友達なんて出来たことがなかった。普通に接してくれる子なんていなかった。
私の、初めての友達。
けれど、その友達と家族を傷付けたのは他でもない自分だ。
「っ、いた…」
額に感じた鋭い痛みと、皮膚を伝って落ちていく生暖かい液体。足元には尖った石が転がっており、白いワンピースは点々と赤く染まる。耐え切れずぐしゃりと顔が歪んだ。それが、合図となった。
「化け物!はよお出てけ!」
「そうじゃ!出てけぇ!」
「この村から今すぐ立ち去れえ!」
躊躇なくぶつけられる石や泥、そして残酷な言葉。
「…ぅ、ふ…うぅ…ゔ……」
慣れていたのに。慣れていたはずなのに。どうしたって涙が止まらない。滲む視界の先には見覚えのある人達もいた。いつも笑顔で話してくれていたおじさんに、おばさん、おじいちゃん。
もう、私は〝異端者〟なんだね。誰からも受け入れて貰えない。誰からも笑いかけて貰えない、哀れな子に戻ったんだ。
「止めろ!娘には手を出すな!!」
ゆらりと大きく身体を左右に振り、お父さんが傘立てから一本の番傘を抜き取る。その瞬間、引き攣ったような悲鳴が上がった。
「む、娘が娘なら、親も親やわ!」
「私のことはなんとでも言うがいい!だが娘に罪は、ない!」
傘を振り回しながら裸足で外へ飛び出すお父さんと、鎌や斧を振り回す村の人達。違うよ。こんなの、望んでいない。



