生け贄、独り。



まるで教科書の音読のような覇気のない語り口調であったのに、クラスメイト達は最後まで口を挟まず真剣に耳を傾けてくれた。

「儀式って、なん?」

ぶっきらぼうな清宮君の声が響く。

その声につられて集まる視線は、ほぼクラスの全員分。やり易いと思った。この人たちとなら、やれると思った。

「そう言えば儀式の話はしてくれなかったですよね、先生」

にこりと微笑みながら先生の顔色を伺う。先生は「本当に全部知っているんだな」と、いう複雑を極めた表情だった。

「儀式、生け贄に選ばれた人の行く末だよ」
「やけん、なんなん?」

強くも、弱くもない声。それが妙に心地良く感じられる。

「写真で見たようなことをされるってことかな」
「……写真」
「え、それって、」
「うん。詳しく言うと心臓を、」

そこまで言ったところで先生が勢いよく立ち上がった。寒いなかだというのに、額にはじわじわと脂汗が滲んでいる。

「このことは後で桜木さんに話して貰うつもりですよ」
「黛、お前、」

すっと手を上げて言葉を遮断すると、指の隙間から桜木さんの顔が見えた。その目はいつもの虚ろなものではなく、鋭く光っていたように思う。それもそうだろう。彼女もある意味で〝被害者〟だ。

「それと梶先生、彼には気をつけていた方がいい。連絡が取れるのなら早めに。彼は、俺の父さんを裏切った人物だから」

駒は、揃った。父さん見ててね。