窓から差し込む光の帯が、木製の床の色を鮮やかなものへと変えていく。どうやら嵐は止んだらしい。これを吉兆と捉えるか凶兆と捉えるかは個々それぞれだ。俺は、できれば前者がいい。

「みんな、起きとるか?」

覚醒を促す担任の声で、クラスメイト達がゆっくりと順々に起き上がる。勿論、俺を含めて既に起きている者も何人かいた。

「……早速で悪いんやけど」

自分はこの先の言葉を知っている。だからこそ絶対に止める必要があった。今日、全てを終わらせる為にも。

「先生、少しいいですか?」
「黛?」

終わらせる為に、始めよう。

「俺はここに、この村の人達に殺された父の復讐に来ました」

瞬間、先生の顔はぴきりと強張り、周囲には声にならないざわめきが走る。ああ、でも、清宮君だけは平静で微動だにしていなかったな。それはきっと、先に打ち明けていたからだろう。

「話、聞いてくれますよね?」

口の端だけを持ち上げて笑う俺に、先生は小さく頷いた。

父さん、やっとここまで来たよ。

大好きだった父さん。正義感の強かった父さん。ジャーナリストだった父さん。思い返せば幾らでも溢れてくる思い出の数々。けれど、その思い出を新しく作って行くことはもう出来ない。

『ユキト、父さんが死んだの』

母さんは何を言っているんだろうと思った。だって、あんなにも元気だったのに。すぐに帰って来るって言っていたのに。

ねえ、泣かないでよ母さん。



『ユキト、またな!』

軽く手を上げてバスに乗り込む父さんを、俺は確かに見送った。

俺のなかで〝生きている〟父さんの最後の記憶は笑顔だ。でも、動かなくなった父さんは見るも無惨な姿で、この肉塊が父さんだと言われても関心は薄く、まるで他人事のように感じられた。あれはただの魂のない〝誰か〟の亡骸。そう思いたかった。

『ユキト』

もう、名前を呼んで貰うことも触れて貰うことも叶わない。

父さんのようになりたかった。父さんが唯一の憧れだった。大切で、大きくて温かな存在を失った俺はどうしたらいい?この遣り切れない思いをどこにぶつけたらいい?違う、考えろ。

なんで父さんがこんなことになったのかを。

教えられた死因は〝滑落事故〟
山のなかを探索中に、崖から誤って転落したらしい。

確かに身体は醜く(ひしゃ)げ、千切れた腕や、折れ曲がった脚からは骨が飛び出していた。更に頭部の一部は陥没。服には泥や草や落ち葉が多く付着し、いかにもといった感じではあったと思う。

けれど、見落とせなかったひとつの違和感。

腕の関節部分に見られた赤黒い痕。あれは注射痕ではないのだろうか。父さんは到って健康だったはずだ。それが、どうして。

調べよう。自分の納得がいくまで。そうしなければ後悔する。だからこそ俺は、父さんが死ぬまでに到った経緯を一から調べ始めた。

事の恐ろしさも知らずに。