料理を作ることが趣味だった。

学校に持ち込めるものといえばお菓子ぐらいで、私はマドレーヌやクッキー、タルトなどを作っては真由やちーちゃんに食べて貰っていた。そして、そんなプチ女子会に目をぱちくりとさせて興味を示してくれた薫ちゃんに、ドーナツを作って来たことが、始まり。

決して沢山の量を食べれるわけではなかった。でも、本当に、心から美味しそうに食べてくれる薫ちゃん。笑顔で、ゆっくりと、幸せを噛み締めるように食べてくれる薫ちゃん。

薫ちゃんのおかげで、夢が決まったんだよ。コンプレックスの塊だった私が、夢を持てたんだよ。昔から胸に抱いていた思いではあった。でも、私なんてと。後ろ向きになって諦めかけていた。

そんな私を後押ししてくれたのは薫ちゃん。彼女だって何度も辛い思いをして来たことだろう。けれど、腐らずに正しく生きている。

「み、ちゃ、みーちゃ、ん゙」

たどたどしくも、いつもきちんと名前を呼んでくれる薫ちゃん。その綺麗な細い指先が、私の丸っこい頬に伸びてくる。

「…な、……ぃで、」

電気もついていないのに、薫ちゃんにはバレていたらしい。

優しい、優しい、彼女の純粋な思いがあたたかい。

少し前に起こった騒動。藤森君が言った言葉は、私にも重く圧し掛かった。けれどそうならなかったのは、皆が優しいから。藤森君だってきっと変われる。こんなに優しい人達を失いたくはない。

そうだよ。今の問題は私じゃない。今、くよくよなんてしていられない。薫ちゃんだって頑張っている。私だって頑張らなきゃ。

「ありがとお、薫ちゃん」
「んっ!」

花が綻ぶように微笑(わら)ってくれた薫ちゃんに、ふと先輩が重なった。

先輩、先輩、山本先輩。私、弱くてごめんなさい。先輩のこと、なにひとつ助けられなくてごめんなさい。先輩と、もっと、話がしたかったです。私、自分のことが嫌いでした。でも、――でもね。

丸い顔に、そばかす。
ぽっちゃりとした身体。
固くて短い髪の毛。

これが、私。

こんな私でもちゃんと生きている。これからも生きて行きたい。だから、後悔だけはしないように。私、少しだけわかったよ。