突然、担任からわけの解らない事を言われた。こんな話を信じろと言われても、とてもじゃないけど信じられない。

「せんせー!意味がわかりませーん!」
「なんのサプライズですかあ?」

笑い混じりにクラスメイト達が茶化す。ほらみろ、誰一人信じてないじゃないか。卒業前の催し物というのなら、もっと楽しそうなものにすればいいのに。今時、デスゲームなんて流行らない。

「な、千夏。コバセンの冗談はほんまにおもんないなあ」
「やな、マジ笑えんわ」

そっと耳打ちをしてきたのは俺の一番の親友、竜。春になればこの田舎を離れ、共に市内の高校へと進む。やっと受験から解放されたのだ。残り僅かとなった中学生としての貴重な時間を、無駄に費やしたくはない。そう大きくもない体育館に、それぞれ冷やかしや不満の声が響く。それでも先生は口を閉ざしたままだった。

「わざわざ体育館にまで移動して、こんな冗談に付き合わされるとは思っとらんかったです」

学級委員長の浅田が、苛立ちを隠そうともせずに声を尖らす。

「皆、教室に戻ろうで」

きっぱりとそう言い切って、どすどすといった効果音がつきそうな足取りで真っ直ぐに向かうのは、見慣れた古い扉の前。そして俺たちは目の当たりにする。事の重大さを。

「……開かん」
「はあ?なに言うとん?」
「委員長まで冗談言うようになったんかあ?」
「それはちょっと笑えんぞ~」

「っ、違!ほんまに開かんの!」

引き手部分に両手を引っ掛け、からだ全体を使って開けようとしている姿は嘘偽りなく必死に見える。もし、演技だとしたら女優になれるレベルだ。けれどもそうではないと解るから、混乱と不安が伝染していく。和やかだった空気は一変、音もなく霧散(むさん)した。

「先生、どういう事ですか?私らにも解るように説明して下さい」

先程よりも声を硬く低く尖らせ、委員長が先生に詰め寄っていく。そんな委員長、いや、俺たち全員に向かって先生は、再びわけの解らない言葉をぽつりと吐き出した。

「ほやから、お前らは一人死なんといけんのじゃ。それか皆で死んで行くか。それしか方法はないんや、……ないんや…、」

白く濁った呼気の数が増えていく。泣き出しそうな女子、興奮気味の男子。俺は何故だかわからないけれど、こうやって周りを冷静に観察できるぐらいには一人、やけに落ち着いていた。

ああ、訂正。同類発見。あいつは――(まゆずみ) ユキト。

こんな田舎では珍しい金髪に、両耳には青い石がついたピアス。誰かと馴れ合ったりしている所は今までに見た事がない。まあ、無理もないだろう。彼は秋に転校して来たばかりなのだから。それにしたって何であんな中途半端な時期に転校して来たんだか。

「なあ!千夏聞いとるか?」

竜の大きな声が、鼓膜をダイレクトに揺らした。

「あ、悪い。ボーっとしとったわ。なん?」
「コバセンがおかしげな事し出したんや!見てみぃ!」

促がされるままに先生の方へ視線を投げると、先生はどこから持ってきたのか、或いは始めから用意していたのか、スライドを準備している。なるほど、この映写機を使う為に電気はつけなかったのか。場違いだとは思うけど、ぼんやりとそんな事を思う。