私は恵まれているのだと思う。

クラスで一番見た目の悪い私だけれど。今までに虐めにあったことはない。人は、普通より劣るものを省きたくなる傲慢な生き物だ。

でも、私の周りの人達は違った。田舎だから?人数が少ないから?違う。皆、あたたかい人だから。田舎なんて関係ない。人数が多くても少なくても、省かれる人は省かれるし、省く人は省く。

先輩たちが良い例だ。

山本先輩が何をしたっていうの?全てを見て来たわけではないから解らないけど、私の目に映っていた先輩は、優しい人だった。





『お花、咲いとるよ』

同じ美化委員だった山本先輩とは、何度か二人きりで話をしたことがある。花が好きで、控えめに笑う女性らしい人だった。

そんな先輩は死んだ。殺された。生け贄に、された。

先輩には顔と腕に大きな火傷の痕があり、それが原因でクラスメイト達から虐められていたらしい。たった、それだけのことで。

『化け物には、聖水を掛けて退治じゃ~!』
『ギャハハ!やば、ウケる』
『おら、逃げんなや化け物!!』

下卑(げび)た笑みを浮かべ、寒い冬の日にホースから水を掛けられている場面に遭遇してしまったことがある。私は、なにも出来なかった。

(怖い、怖い、怖い!)

もしも一年早くに生まれて来ていたら、きっと私もターゲットにされていただろう。生け贄にされていたかもしれない。

『おい、デブス!こっち見んなや』

足が竦んで動けない私にも、容赦なく向けられる悪意の塊。

(怖い、怖い、怖いよ…)

沼の底のような、澱んだ先輩の()が更に私を動けなくさせた。

『何しよんですか!』
『美月!山本先輩!……っ、先輩ら引くほどダサいですよ!』

私と先輩を助けてくれたのは、桂木君とちーちゃんだった。二人は年上に対しても臆することなく堂々としていて、途端に自分が恥ずかしくなる。私も一緒じゃないの?卑怯で汚い、傍観者。

虐めているも同然。虐めているのと同等。

励ましてくれる二人の声が優しくて、それが余計に惨めにさせた。新たな劣等感が生まれる。見た目だけじゃなくて私は中身も最悪だ。胸が苦しい。どうしようもない程に、胸が苦しいよ。

私に出来ることってなんだろう。私って、なに?わからない。