明かりが落とされ、まだ目も闇に慣れないなか、ぽつぽつと聞えるクラスメイトの話声。皆それぞれに思い、なにかを考えている。

「セン、起きとるか?」

控えめに掛けられた声に、僕は顔だけを怜の方へと向けた。

「正直、寝られんかなあ」

苦笑交じりで答えると、怜の方からも小さな笑い声が返ってくる。こんな時ではあるけれど、それがとても心地良く感じられた。いつもと変わらない平凡な日常みたいで。少しだけほっと出来た。

僕たちに課せられている問題は決して簡単なものじゃないけど。

「……怜は、怖くないん?」

自然と聞きたいことが口から零れる。この暗さが手伝ってくれたのだろうか。表情を隠してくれるこの暗さが。

「勿論怖いよ。それにやっぱり、まだ死にたくないけん」

暗い、暗い、不思議な空間。

「俺は、センや皆が思ってくれとるような奴やないんで。本当は臆病で卑怯な、普通の人間なんよ」

引き出されるのは(まご)うことなき本音。

今まで、怜の弱音なんて聞いたことがなかった。長谷川と高槻のことだってそうだ。怜はずっと、長い間一人で悩んできたのだろう。

(僕が頼りないから、かなあ…)

心臓が、ぎゅーっと痛くなる。勝手にライバル視をしておいて、頼りにされていないと思うと寂しいだなんて。自分が嫌になる。

「センが羨ましい」
「………え?」

怜は今、なんて言った?

「さっき、俺の為に泣いてくれたやろう?あんな風にみんなの前でも感情が出せるセンが羨ましい」

違う、違うよ、怜。

「センは、自慢の親友やけん」

どうしようもないほどに目頭が熱くなる。勝手に僕が藻掻(もが)いていただけで、怜はちゃんと見てくれていた。本当の僕を。

「ああ、でも親友やけどライバルでもあるんかな。いつもセンに負けんように頑張りよんで、俺」
「っ、」

どうして怜は、こんなにも嬉しい言葉をくれるんだろう。

「親友でライバル、やな」
「………うん」

不安も、葛藤も、全部綺麗に吹き飛ばしてくれるような言葉を。

「はは、なんや恥ずかしいことを言うてしもうたな」

照れくさそうな声に口元が緩んだ。こんな暗闇では表情は見えないと思う。だけど今、確かに僕は笑えている。

「怜、皆で生きて出ような」
「そうやな、生きよう」
「「おう!」」

親友の、怜。ライバルの、怜。

今度は明るい陽のもとで笑い合いたい。嘘偽りない笑顔で、胸を張って親友と肩を並べたい。もっと我が侭になってもいいかな?自分を出してもいいかな?出して、いきたいな。いけたらいいな。