「俺は大人が憎い。汚くて、自分勝手で、狡い大人が憎い。みんな、みんな、死んだらええって、そう思っとる」

隠して、隠して、只管(ひたすら)に閉じ込めていた本音の言葉が溢れ出す。

「この馬鹿げた茶番だってそうやろ?大人の勝手で起こった事件の尻拭いを、俺たち子供がせんといけんなんてフザケとるが」

一度溢れ出した言葉はもう自分では止められない。

「汚い大人が死ねばええ、父さんも母さんも死んだらええんや!」
「駄目だよ」

ずっと、黙って聞いていたはずの黛が強い口調で制す。

「そんなことを言っていて本当に死んでしまったら後悔するから」
「なんっ」
「俺の父さん、死んでるんだ。――殺されたんだよ」

なにを馬鹿な、とは言えない雰囲気だった。それ程までの迫力と憎悪が見えたから。これは、他人が踏み込んでいい領域じゃない。

「だからね、俺は犯人が憎い。憎んで、憎んで、憎んで憎んで、」

そこまで言って黛は大きく息を吸い込んだ。切なげに寄せられた眉が、その心情をありありと伝えてくる。痛い、苦しい、と。

「な、こんな風になりたくはないだろ?なって欲しくもないと思う。清宮君にはやり直すチャンスがあるんだから」

ふわりと笑う顔は、どこにでもいるただの十五歳の中学生で。

「なんでかな?個人的に誰かにこの話をする気はなかったのに」
「……黛」
「まだ、この話は秘密にね」

殆ど減っていないカレーライスが乗せられているおぼんを持ち上げ、黛は意味深な言葉を残してステージの上から降りていった。その背中を見送りながら、胸に残ったひとつの言葉をリピートする。

〝やり直すチャンス〟

そんなもの、本当にあるのだろうか。俺はやり直したいと思っている?一体誰と?真由と?友達と?先生と?父さんと、母さんと?

真先に、浮かんだのは。



「よお、わからん…」

今の俺には、自分では治せない傷口が沢山ある。それは長く辛い過去から現在へと途切れることなく続いていて、未だ先は見えない。

けれど、今日。何かが動いた気がした。 

憎み続けて人生が終わると思っていた。でも、黛はやり直すチャンスがあると言った。そんな夢みたいな馬鹿なこと、少しだけ想像してみたら傷口がいつになく痛んだ。まるで泣いているかのように。

そうか、これは素直に泣けない俺の涙。