生け贄、独り。

あの日から数日後、理科準備室は椿の手によって破壊された。

そしてそこから出てきた避妊具が問題となり、秘密の部屋は完全に封鎖。巧く誤魔化したのか、先生へお咎めはなにもなかった。恐らく国枝先生も絡んでいるのだろう。(きたな)い大人のやり口。

「お前が清宮に頼んだのか!」

私と椿が昔仲が良かったことを誰かから聞いたらしい先生は、私をひどく責めた。どんなに違うと言っても信じてはくれなくて、どんなに縋っても私をもう見てもくれなくて。

先生との関係は、呆気なくプツリと切れてしまった。

本当に、ただただ摘み食いをされていただけの私。こうなって良かったのかもしれない。取り返しのつかなくなる前に。

そっと下腹部を撫でながら溢れるのは、未練がましい涙。

私の子宮、汚れちゃった。好きな人とならって思っていたけど、その好きな人は最低最悪で、救いようのない穢い人。でも、どうしても嫌いになれないの。私の心も、汚れちゃった。

こんな事になっても、先生を想い求めている。自宅謹慎中の椿を憎んでる。本当は感謝するべき相手なのにも関わらず、憎んでる。

ああ、最低なのは私か。



「――ゆ!真由ってば!」

ちーちゃんの声で、溺れ掛けていた思考の海からゆっくりと息継ぎをするように浮上した。ちーちゃんも美月も、青い顔をしている。

「ご、ごめん。ほんまに大丈夫やけん心配せんで?」

もう一度にこりと笑って見せても今度は通用しなかったのか、ちーちゃんが意を決したような顔で先生の元へと足を進めて行く。

「先生、佐々木さんが具合悪いみたいやけん、佐々木さんだけでも外に出してあげられませんか?」

無遠慮に向けられる多くの視線が、痛い。