生け贄、独り。

「真由、今日も居残りするん?」

理科準備室に向かう途中で、ちーちゃんとすれ違った。

「うん!やけん今日も美月と先に帰っとって?いつもごめん!」
「ん、全然ええよ」

手を振って別れた後、私は鼻歌まじりで廊下を進む。あれから先生は、熱心に相談を受けてくれるようになった。

私に合った学校はないか、面白い学校はないか、驚くほど親身になってくれる先生に、いつしか嫌いという感情は間逆になってしまっていた。本当は、あの日既に咲いてしまっていたのだろうけど。

「先生、おる?」

埃っぽい部屋のなかも、私にとってはお城の一室のようにさえ感じた。このぐらいの年頃の女の子が恋をするという事は、こういう事なのだ。真っ直ぐで、何も見えなくて、綺麗な所だけを切り取る。

本当に、呆れるくらい先生に夢中になっていた。ふわふわと漂う夢心地、憧れのままでいられたら良かったのにね。

「遅いぞ、真由」
「へへ、ごめんなさーい」

慌てて椅子に腰を下ろす私の手を、そっと取る先生。

私は何も知らない子供だったの。だから、溺れて、溺れて、最後には沈むだけ。そのまま塵となって消える未来だなんて、思いつきもしなかった。

「まだ、明るい……」
「カーテンと鍵、閉めたら平気だろ?」

私は確かに先生から熱心に進路の事について、指導をして貰っていた。けれどそれは、いつしか他の指導へと変わる。

「んっ」

強く手を引かれ、机を挟んで唇が浅く重なった。冷たい先生の唇。

「先生は意地悪や」
「はは、そうかもなあ」

悪戯っぽく笑う先生に、どうしようもなく胸がときめく。こんなシチュエーション、漫画やドラマの世界でしか有り得ないと思っていた。でも、確かに自分自身の身で実感している。

ある日私は、押さえ切れなくなった思いを先生にぶつけた。すると、先生は驚くほどあっさりと私を受け入れてくれた。

ここが漫画やドラマとは違う現実なのかもしれない。

主人公が悩む事も、相手の先生の葛藤も、降りかかる数々の問題も、実際にはないみたいで。恐ろしく順調に仲を深めていった。

「せんせえ」
「ん?どした?」

カーテンを閉め薄暗くなった室内で、先生の膝の上が私の定位置。解かれるスカーフ、乱されていく制服、晒される肌。開花された女の部分が疼く。先生との行為に溺れ、先生と繋がる度に、勝手ながら二人の愛が深まっていっているのだと信じていた。

「私のこと、好き?」

未だ成長し切っていない胸の膨らみに顔を埋める先生は、くぐもった声で返事をくれる。甘えたように〝特別〟にするみたいに。

「あたりまえだろ」

私は、本当に馬鹿だったのだと思う。セックスは麻薬と同じだ。嵌れば嵌る程に依存して、抜け出せない。快楽と、優越感。

馬鹿な私は一人で勝ち誇った気分になっていた。美月もちーちゃんも、今までに彼氏が出来たことはない。クラスで唯一のカップルである桂木君達ですらキスもまだだという。争う所が違ったのにね。