衝撃的な話を聞かされてから、どれぐらい時間が経ったのだろう。夜の帳が下りた窓の外に映るものはなく、たったひとつのストーブだけでは凌ぎ切れなくなった寒さが体中を突き刺してくる。

今日は色々なことがあった。そして、色々なことを知った日でもあった。私たちは今まで、本当に上辺だけの付き合いだったみたいだね。だからこそ気付きもしない。気付こうともしなかった。

桂木君たちのこと、亜矢ちゃんのリストカット、藤森君の残虐な一面、日野君の秘めた想い。きっと他の皆も、なにかを隠して過ごして来ていたのだろう。それは私だって、例外じゃない。
 
「真由、大丈夫?」

心配そうな声音(こわね)で毛布を肩にかけてくれたのは友人の美月。

「布団も用意してあったんやって」

そう言って体育館倉庫の方を見遣る美月に視線がつられると、そこには大きな布団を抱えて運び出している男の子たちの姿があった。

途端に思い知らされる。答えを出すまで此処から解放して貰うことは叶わないのだと。再び重く圧し掛かってきた現実に、背筋が震えた。誰か一人を選ぶのか、皆で死ななければならないのか。

数時間前、自ら〝死〟を志願した桂木君と亜矢ちゃんのことは保留になった。それを強く望んだのは、可奈ちゃんと理恵ちゃん。そして柳君と桐谷君と、日野君とちーちゃんだった。

勿論、二人が本当に死にたいと思って志願したんじゃないって解ってる。優しさから、自己犠牲を選んだんだよね。私には到底真似できないよ。皆には言えないけれど、私も藤森君と同じようなことを考えてしまった人間だから。自分が助かりたいと思う一心から、残酷な選択を頭に浮かべていた。薫ちゃんに罪はないのに。

「真由、ほんまに大丈夫?顔色がよおないみたいやけど」

美月の声で、はっとする。俯く自分の蟀谷(こめかみ)から伝う玉の汗。

ああ、本当にどうしようもない。こんなことになっても、いや、こんなことになったからこそ私は求めてる。もう、私なんかを見てもくれない存在。この狭い体育館のなかをどんなに探したって居るはずもないあの人。会いたい、会いたいよ、先生。

美月から受け取った毛布で体を包み込み、その下でそっと下腹部を撫でた。どんなに望んだって、先生は戻って来ないけれど。
 
「――ゆ、真由!」

いつの間にか蹲る体勢になっていた私のところへ、ちーちゃんも駆けつけてくれていた。慌てて顔を上げると心配そうな顔が二つ。

「ごめん、ちょっと……だけ、お腹が痛かったんよ」

にこりと偽りの笑顔を浮かべる私に、ちーちゃんが溜息を吐く。

「真由は何でも溜め込み過ぎや。ちゃんと頼れる時は頼ってな」

しっかり者のちーちゃん。底抜けに優しい美月。こんなにも温かい二人にさえ、私には言えないことがある。〝秘密〟を抱えている。