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霞がかった視界のなか、暁人が桜木から眼鏡を受け取り、それと同時に小さく落とされたお礼の言葉が耳に届いた。
「………ありがとう」
消え入りそうなほどに小さな声。けれど、その声はちゃんと桜木にも届いていると思う。ああ、やっぱり暁人は変われるよ。きっとやり直せる。俺はグッと拳を握り、倒れ込んだままの暁人の元へと足を運んだ。また殴られるとでも思ったのか、全身を硬直させる。
「暁人、俺のことも殴ってくれ」
パチンと自分の右頬を軽く叩き、真っ直ぐに暁人を見た。鳩が豆鉄砲をくらったような顔になっている暁人に、再び声をかける。
「殴って悪かった。やけん、コレで恨みっこなしや」
もう一度自分の頬を叩いて促がすと、暁人は二、三度瞬きを繰り返し、そして、――バチン!思いっきり俺の頬を引っ叩いた。
殴れといったのに、引っ叩く辺りが暁人らしいなと思う。そういうところがいいなと思う。なんて、冷静に考えている自分に笑えた。
暁人は変われる。俺も変わりたい。そして、きっと千鳥も。
大切な人達と、これからも過ごしていきたいと強く思った。だからこそ、早くこの柵から抜け出したい。抜け出せると切に願うよ。
『アス兄!こっちこっち』
『ちぃ、待てって!そんな引っ張ったらこけるわ』
『ははっ、ええやん!一緒に泥んこなろ』
『おまえなあ~』
『お母さん、行って来まぁす』
『はいはい、いってらっしゃい。はよう帰ってくるんよ』
『『はーい』』
あの日の愛しさを、尊さを、必ず取り戻してみせる。
霞がかった視界のなか、暁人が桜木から眼鏡を受け取り、それと同時に小さく落とされたお礼の言葉が耳に届いた。
「………ありがとう」
消え入りそうなほどに小さな声。けれど、その声はちゃんと桜木にも届いていると思う。ああ、やっぱり暁人は変われるよ。きっとやり直せる。俺はグッと拳を握り、倒れ込んだままの暁人の元へと足を運んだ。また殴られるとでも思ったのか、全身を硬直させる。
「暁人、俺のことも殴ってくれ」
パチンと自分の右頬を軽く叩き、真っ直ぐに暁人を見た。鳩が豆鉄砲をくらったような顔になっている暁人に、再び声をかける。
「殴って悪かった。やけん、コレで恨みっこなしや」
もう一度自分の頬を叩いて促がすと、暁人は二、三度瞬きを繰り返し、そして、――バチン!思いっきり俺の頬を引っ叩いた。
殴れといったのに、引っ叩く辺りが暁人らしいなと思う。そういうところがいいなと思う。なんて、冷静に考えている自分に笑えた。
暁人は変われる。俺も変わりたい。そして、きっと千鳥も。
大切な人達と、これからも過ごしていきたいと強く思った。だからこそ、早くこの柵から抜け出したい。抜け出せると切に願うよ。
『アス兄!こっちこっち』
『ちぃ、待てって!そんな引っ張ったらこけるわ』
『ははっ、ええやん!一緒に泥んこなろ』
『おまえなあ~』
『お母さん、行って来まぁす』
『はいはい、いってらっしゃい。はよう帰ってくるんよ』
『『はーい』』
あの日の愛しさを、尊さを、必ず取り戻してみせる。



