「そもそもの原因、それは――」
そうして、ゆっくりと着実に語られていく過去の凄惨な出来事。
途中で泣き出す奴もいた。トイレに駆け込み、逃げ出す奴もいた。けれど、僕だけは終始目を輝かせていたのだろう。視線が絡み合う度に、先生は苦い顔をしていたような気がする。
「どうしてこんな体験をしとるのに、皆が村を出ていかんかったり戻って来たりするか、解るか?」
全てを吐き出し、最後に先生は質問を投げかけた。そして。
「罪悪感」
その質問に答えたのは黛だった。
ある意味で、黛も他の奴らとは違う。顔色一つ変えずに答えられる胆力。一貫してぶれない冷静さと態度。きっと、件の話の最中も今のように無表情だったのではないだろうか。
「そうやな、その通りや。過去の事件への罪悪感、それと一人を犠牲にして生きとるというどうしようもない事実への罪悪感」
少し震える声で喋る先生は、深く長い溜息を吐き出した。
「自分もそうや。最初は逃げとうてこの村を出た。やけども、何をしたって顔がチラつく。犠牲になったアイツの顔がチラつくんや」
ガタガタと、格子つきの窓が揺れる。外の天気は大荒れだろう。
「逃げられんと思った。逃げたらいけんと思った。やけん、帰って来たんや。二度と戻らないと決めたはずのこの村に……」
それはまるで、僕たちの未来を憂いているようにも取れる独白だった。残念ながら僕の心には一ミリも響かなかったけど。
だって、そんなことよりも。この村で実際に起こったといわれる事件。そのことで頭がいっぱいで、酷く興奮していたのだ。もっと詳しく知りたい。自分自身でも徹底的に調べたい。この背筋を這い上がる快感が堪らなく気持ちいい。
そう、飛鳥が危惧していたのは僕が持つ特殊嗜好の顕現。
実際に起こった猟奇的な事件や、シリアルキラーの事件。拷問を伴うグロテスクなホラー映画や小説、漫画、そんな一般的には吐き気を催すようなものであればあるほど、僕にはご褒美だった。流石に、小動物の解剖を自分の手でしようとは思わなかったけれど。
それでも、いつかとんでもないことをやってしまうんじゃないか。そんな不安すら覚える程にのめり込んで抜け出せなかった。それが嫌じゃないことも空恐ろしかった。何より恐ろしいとも思うのに、興奮する気持ちが止められない。いよいよの変人であり、変態だ。
「――と!暁人!」
飛鳥の声ではっとする。そして僕は自分の異変に気付いた。
喉の奥から込み上げてくるもの。そして涙目で僕は笑っている。飛鳥は青い顔をし、先生は項垂れた。あーあ、遂にやってしまった。最初に写真を見せられた時は、吐くことで抑えられていた感情。けれど、今回は吐き気だけで済んでしまい〝アレ〟が露になった。
クラスメイトの戸惑いと、恐怖と疑問を抱いたような眸。
もう隠せない。隠すのも面倒くさい。そう思った瞬間、僕の心の奥でギリギリ保たれていた大切だったはずの何かがプツリと切れた。
そうして、ゆっくりと着実に語られていく過去の凄惨な出来事。
途中で泣き出す奴もいた。トイレに駆け込み、逃げ出す奴もいた。けれど、僕だけは終始目を輝かせていたのだろう。視線が絡み合う度に、先生は苦い顔をしていたような気がする。
「どうしてこんな体験をしとるのに、皆が村を出ていかんかったり戻って来たりするか、解るか?」
全てを吐き出し、最後に先生は質問を投げかけた。そして。
「罪悪感」
その質問に答えたのは黛だった。
ある意味で、黛も他の奴らとは違う。顔色一つ変えずに答えられる胆力。一貫してぶれない冷静さと態度。きっと、件の話の最中も今のように無表情だったのではないだろうか。
「そうやな、その通りや。過去の事件への罪悪感、それと一人を犠牲にして生きとるというどうしようもない事実への罪悪感」
少し震える声で喋る先生は、深く長い溜息を吐き出した。
「自分もそうや。最初は逃げとうてこの村を出た。やけども、何をしたって顔がチラつく。犠牲になったアイツの顔がチラつくんや」
ガタガタと、格子つきの窓が揺れる。外の天気は大荒れだろう。
「逃げられんと思った。逃げたらいけんと思った。やけん、帰って来たんや。二度と戻らないと決めたはずのこの村に……」
それはまるで、僕たちの未来を憂いているようにも取れる独白だった。残念ながら僕の心には一ミリも響かなかったけど。
だって、そんなことよりも。この村で実際に起こったといわれる事件。そのことで頭がいっぱいで、酷く興奮していたのだ。もっと詳しく知りたい。自分自身でも徹底的に調べたい。この背筋を這い上がる快感が堪らなく気持ちいい。
そう、飛鳥が危惧していたのは僕が持つ特殊嗜好の顕現。
実際に起こった猟奇的な事件や、シリアルキラーの事件。拷問を伴うグロテスクなホラー映画や小説、漫画、そんな一般的には吐き気を催すようなものであればあるほど、僕にはご褒美だった。流石に、小動物の解剖を自分の手でしようとは思わなかったけれど。
それでも、いつかとんでもないことをやってしまうんじゃないか。そんな不安すら覚える程にのめり込んで抜け出せなかった。それが嫌じゃないことも空恐ろしかった。何より恐ろしいとも思うのに、興奮する気持ちが止められない。いよいよの変人であり、変態だ。
「――と!暁人!」
飛鳥の声ではっとする。そして僕は自分の異変に気付いた。
喉の奥から込み上げてくるもの。そして涙目で僕は笑っている。飛鳥は青い顔をし、先生は項垂れた。あーあ、遂にやってしまった。最初に写真を見せられた時は、吐くことで抑えられていた感情。けれど、今回は吐き気だけで済んでしまい〝アレ〟が露になった。
クラスメイトの戸惑いと、恐怖と疑問を抱いたような眸。
もう隠せない。隠すのも面倒くさい。そう思った瞬間、僕の心の奥でギリギリ保たれていた大切だったはずの何かがプツリと切れた。



