そんな僕と飛鳥の地味な応酬はさて置き、特等席で聞くことができた先生の話は、本当に俄かには信じられないようなものだった。
まずは、僕たちの先輩の話から始まる。先程見せられた写真の通り、先輩たちが生け贄に選んだのは元々虐めの対象だった人物。
虐めの事実を知っていて、そしてその人物が死んでいてもなお、感情の一切を削ぎ落として喋る先生から目が離せない。それは隣で聞いている飛鳥や、他、何人かのクラスメイトも同じなようだった。
更に話は遡ること、数十年前。先生たちの代の話も聞かされる。
先生たちの代も、僕たちと同じように虐められている奴も居なければ、特に仲が悪くもない平凡で普通のクラスだったらしい。
ここで、漸く先生の感情が揺れる。僕たちと同じだったからこそ、本当に大変だったのだと語る先生の目には涙が溜まっていた。流石に先生も、自分たちのしたことには罪悪感があるのだろう。
だってこうして先生が生きているということは、確実に誰か一人が犠牲になっているということなのだから。
やはり人間とは、貪欲で愚かで、残忍で自己中心的だ。
どんなに綺麗事を並べていても、結局は自分が一番可愛い。だからこそ、先生は今ここに居る。そして僕たちも、――きっと。
一通りの話が終わると、ごうごうと燃えるストーブの環境音だけを残し、辺りはしんと静まり返った。
そんななか、僕は一人釈然としていなかった。確かに先生の口から語られたことは事実なのだろう。けれど、何かが足りない気がする。根本的な〝なにか〟が隠されているような気がしてならない。
「先生、他にも隠しとる事があるんやないですか?」
どうやら釈然としていなかったのは僕だけではなかったらしい。やっと自分のペースを取り戻したのか、浅田が強い口調で責める。
「お前らは冷静やな」
ふっと目を伏せ、曖昧に笑ったかと思えば。次の瞬間にはバン!と大きな音が響いた。先生は床を叩き、顔を歪めて声を張り上げる。
「今から言うことを聞いてしもうたら、ますます抜け出せんくなるど!それでもええんやな!覚悟は、あるんやな!」
最終警告なのだと思った。
「……これは、先生がお前らと一緒の立場になっとった時に聞いた話や。ほやから確証はない。でも、」
そこまで言って、先生は一度呼吸を整える。
「でも、作り話とも思えん」
言い切った。はっきりと言い切ったぞ。
魅惑的な回想録の予感にぞわりぞわりと肌が粟立つ。きっと今から語られる話、それこそが僕が待ち望んでいたものに違いない。
「遠い昔、この村の住人が犯した罪と罰の話や。聞きとうない奴は耳を塞いどってくれえな。ステージ裏やトイレに逃げてもええ」
ああ、ああ、遂に。ダメだ、また顔がにやける。抑えろ、抑えろ。
まずは、僕たちの先輩の話から始まる。先程見せられた写真の通り、先輩たちが生け贄に選んだのは元々虐めの対象だった人物。
虐めの事実を知っていて、そしてその人物が死んでいてもなお、感情の一切を削ぎ落として喋る先生から目が離せない。それは隣で聞いている飛鳥や、他、何人かのクラスメイトも同じなようだった。
更に話は遡ること、数十年前。先生たちの代の話も聞かされる。
先生たちの代も、僕たちと同じように虐められている奴も居なければ、特に仲が悪くもない平凡で普通のクラスだったらしい。
ここで、漸く先生の感情が揺れる。僕たちと同じだったからこそ、本当に大変だったのだと語る先生の目には涙が溜まっていた。流石に先生も、自分たちのしたことには罪悪感があるのだろう。
だってこうして先生が生きているということは、確実に誰か一人が犠牲になっているということなのだから。
やはり人間とは、貪欲で愚かで、残忍で自己中心的だ。
どんなに綺麗事を並べていても、結局は自分が一番可愛い。だからこそ、先生は今ここに居る。そして僕たちも、――きっと。
一通りの話が終わると、ごうごうと燃えるストーブの環境音だけを残し、辺りはしんと静まり返った。
そんななか、僕は一人釈然としていなかった。確かに先生の口から語られたことは事実なのだろう。けれど、何かが足りない気がする。根本的な〝なにか〟が隠されているような気がしてならない。
「先生、他にも隠しとる事があるんやないですか?」
どうやら釈然としていなかったのは僕だけではなかったらしい。やっと自分のペースを取り戻したのか、浅田が強い口調で責める。
「お前らは冷静やな」
ふっと目を伏せ、曖昧に笑ったかと思えば。次の瞬間にはバン!と大きな音が響いた。先生は床を叩き、顔を歪めて声を張り上げる。
「今から言うことを聞いてしもうたら、ますます抜け出せんくなるど!それでもええんやな!覚悟は、あるんやな!」
最終警告なのだと思った。
「……これは、先生がお前らと一緒の立場になっとった時に聞いた話や。ほやから確証はない。でも、」
そこまで言って、先生は一度呼吸を整える。
「でも、作り話とも思えん」
言い切った。はっきりと言い切ったぞ。
魅惑的な回想録の予感にぞわりぞわりと肌が粟立つ。きっと今から語られる話、それこそが僕が待ち望んでいたものに違いない。
「遠い昔、この村の住人が犯した罪と罰の話や。聞きとうない奴は耳を塞いどってくれえな。ステージ裏やトイレに逃げてもええ」
ああ、ああ、遂に。ダメだ、また顔がにやける。抑えろ、抑えろ。



