じわじわと繋いでいる手に汗が滲む。あんなにも冷たくなっていたはずの私の手は、可奈の体温に触れて温かくなっていた。

「理恵、もしこのことが無事に終わって、皆で帰れるようになるんなら……話が、あるんよ…」

不意に話し出す可奈に、小さく肩が揺れる。

「〝二人〟に大事な話があるんよ」

指先に力が込められ、ぴくりと眉が動いた。どこかいつもと違う可奈の声に、違和感を覚えたけれど。不思議と嫌な気持ちはしない。

「話ってなんなん?」
「……それは、まだ言えんよ」

不意に重なる、昔の面影。

可奈は何かを変えようとしている。それは亜矢にも言えることだろう。リストカットのこと、知ってたよ。だってずっと一緒に居たんだもの。気付かないわけがない。でも、私は何も出来なかった。

もし、もしも、原因が自分なら。そう思うと怖くて何も出来なかった。それにきっと、触れられたくないんだ。知られたくないんだ。だって、何も言ってこないってことはそういうことでしょ?なんて、自分勝手な解釈で逃げた。ほんと私は逃げてばかりだったね。

けれど亜矢は今、私たちにも自分から言わなかったことを皆の前で言った。どれ程の勇気が要ったのだろう。どれ程の覚悟が要ったのだろう。二人共、どんどん進んでいくんだね。

こんな私にも、今、出来ることってあるのかな。

このまま可奈の手を握っていること?亜矢を見守っていること?どちらについていけばいいのか、この後にも及んで迷っていること?

(違う!)

私にも、勇気が欲しいんだ。

気持ちを押し殺し、二人をただジッと見つめている可奈。そして何かを変えようとしている可奈。自らを犠牲にして、桂木君を守ろうとしている亜矢。そして全てを曝け出した亜矢。

二人ほどの勇気は出せないかもしれない。それでも信じてみたい。私にも出来ることがあるって。だからこそ勇気が欲しい。私が守りたい未来の為に。

「…っ、せ、先生え!」

声は震え、ひっくり返って上擦る。でも負けない。負けるもんか。

「先生も、この村の出身って言うてましたよね?詳しゅう教えて下さい。何で私らがこんなことに巻き込まれて、こんな(むご)いことをせんといけんのんかを…!」

クラスメイト全員の前で、大きな声を出すなんて初めてだった。

「……理恵?」

不安そうな顔で見てくる可奈。そんな可奈に答えるように、繋いでいる手に力を込める。これがね、こんなことでも私には精一杯の勇気なの。大きな声を出すことが勇気だなんて、二人には到底敵わないけど、でも、お願い。伝われ、伝われ、私の、想い。

「可奈も、亜矢も、桂木君も、死なせんよ?皆で考えたらええんや。そうしたらきっと、なにか答えが見つかると思うけん」
「り、え…」
「絶対、皆でここから出ようで。………私も二人と…話がしたい」

生きて、もっと話をしよう。
可奈と、亜矢と、みんなと。あたたかな春を迎えたい。