桂木君と亜矢のやり取りを見ながら、隣で可奈が泣いていた。

いつもの可奈なら、喚いて二人に飛び掛って行きそうなのに、可奈はそれをしなかった。そしてただ、私の手を握っている。

私は、迷っていた。こんな状況なのに。可奈と亜矢、どちらにつくべきなのかを。どちらを選択することが正解なのかを、測りかねていた。どうして私は自分の意志を持てないのだろう。自分で決めることが出来ないのだろう。嫌になるぐらいに弱い、自分。

人に頼まれると断れなかった。促がされると流された。第三者目線で見ると、きっと私は都合のいい人間。でも、そうすることでしか自分の居場所を保てなかった。

可愛くて、何でも出来る亜矢。
明るくて、親しみやすい可奈。

私の親友はクラスでも一位、二位を争う人気者。それに引き換え、自分は地味でなんの取り柄もない薄っぺらい空気みたいな存在。

二人と居るのは辛かった。けれど、二人と離れるのは嫌だった。

だから私は、都合のいい人間という立ち位置を選んだ。誰よりも一番に空気を読み、誰よりも進んで嫌なことをする。そうすることで、二人と共に居られた。周りからも認めて貰えた。虚しさだけが募っていったけど、なにも知らない〝イイコ〟のふりをする。

利用されていること、ずっと解ってたよ。でもね。二人とこれから先も一緒に居たかったの。三人で笑い合っていたかったの。

昔のように。

『これからも、ずっと、しんゆう』
『うん、やくそく!』
『ぜったい、ぜったいやけんね』

四葉のクローバーを見つけて、三人で誓ったことを二人は覚えているかな?一瞬でも思い出してくれる日があったらいいな。なんて、私のささやかな願いは一瞬で砕け散ってしまったね。――あの日。



『私、桂木くんのことが好きなんよ。お願いやけん協力してくれん?』

可奈に言われたこの言葉。

たったこれだけの言葉で、私の身体は石像のようにカチリと固まり、思考も停止した。そして私たちの関係は、大きく揺らいだ。

本当はね、私がお願いしたかったの。助けて欲しかったの。

だって桂木君のこと、小さい頃からずっと大好きだったんだよ。それに、亜矢の気持ちにも薄々気が付いていた。だからこそ可奈に助けて欲しかった。初めて自分から助けを求めようとしてた。でも。

まさか可奈も桂木君のことを好きだなんて。知らなかった。知りたくなかった。けれども結局、私は可奈の望みを受け入れた。抗うことなんて出来なかった。やっぱり私は弱い人間。ダメな人間だ。

自己嫌悪に陥る日々が続く。抜け出すことの出来ない泥濘。自分で選んだ道なのだから仕方がないのだけれど。涙が止まらなかった。

そして程なくして、可奈と桂木君が付き合いだすようになる。二人と亜矢を見るのは辛かった。辛いからこそ自分の気持ちに蓋をしたように、素知らぬ顔で逃げた。馬鹿だね、私、本当に、馬鹿だ。

崩れていく、未来が、夢が、私が抱いていた小さな希望が。