生け贄、独り。

根本的に間違っていた。どうして俺は自分で気持ちを伝えなかったのだろう。勇気を出せなかったのだろう。これは〝罰〟だ。

可奈を利用しようとした、高槻に気持ちを伝える勇気のなかった、愚かな自分への罰なんだ。だとすれば、俺はその罰を受けなければならない。高槻のこと、今でも好きだ。大好きなんだ。

でも、可奈のことも愛しいと思う。この気持ちは嘘じゃない。偽りの形ではじまった関係だけど、俺のことを全力で愛してくれる可奈。時に怖いとも思う程の人間臭いところも、嫌いじゃないよ。

だから、俺も。その可奈の気持ちに答えたい。今日のことがあって、きっとまた頭のなかは高槻で埋め尽くされると思う。でも、その気持ちが薄れた時、本気で可奈と向き合いたい。だから、それまで待っていて欲しい。それが俺を騙した可奈の罰だ。

本当は、めちゃくちゃに壊してしまいたいよ。

けれど、それをしないことが俺から可奈への想い。恐らく、可奈と別れると高槻は二人から酷い目に遭うだろう。それを止めることが俺から高槻への想い。これくらいの我が侭は許して欲しい。二人を切り離せない、俺の我が侭。でも、誓うから。二人を守るって。







あの時の誓い、果たす時が来たみたいだ。

まだ少し苦しそうな可奈の頬に、そっと触れる。沢山の涙の痕が痛々しい。結局俺は、二人を守れてなんかいなかった。でも、今ハッキリと解ったよ。あの日、あの時の誓いは、今日の日の為だったんだなって。二人を、そしてクラスの皆を守る為。

「可奈、さっきの言葉は取り消せな?そうやないと俺、可奈のことを嫌いになってしまうけん」

俺の言葉に可奈は、頭が取れるんじゃないかという程に頷く。

そして、そのままゆっくりと抱きついてきた。こんな状況にでもなっていない限り有り得ないことだけど、俺も人の温もりを感じることが出来て良かった。とくん、とくん、と心音が重なり合う。

このまま、とも思ったけれど。俺は可奈の耳元で言葉を口にした。

「俺は可奈と松田が騙しとったこと、知っとるよ。なあ、可奈。少しでも悪いと思う気持ちがあるんやったら、これから俺がすることに口を出さんでくれな?」

静かに、可奈の背中に回していた手を離す。

「可奈のこと、ちゃんと、好きだった」

自分でも信じられないくらいに穏やかな笑顔で、声で、言うことが出来た。それでも俯いて俺を見ようとしない可奈の頭を撫でる。

「約束、な?」

温もりが、離れた。俺はその足で高槻が居る場所へと向かう。最期に、気持ちを伝える為に。そうして、決意を持って、先生の元へ。