やっと言えた、やっと伝えることが出来た。

少し、名残惜しいけれど。高槻を残してトイレを後にする。意を決して一歩踏み出せば、押し寄せてくるのは言い知れぬ恐怖。それでも進むと決めた。だから大丈夫。もう、絶対に迷わない。

「先生、質問してもええですか?」

ざわめいていた空気が凍てつく。高槻はまだトイレから出て来ないだろう。それだけでも良かったなと思う。聞かせたくないから。

「絶対に、誰か死なんといけんのんですね?一人が選べんのなら、皆で死なんといけんのんですね?」
「……そうや」

重く、辛い、一言だった。

これが冗談だったらどんなに良かっただろう。卒業前の、ちょっとした遊び心、なんて。そんな遊び心、誰の得にもならないか。

これは〝現実〟なんだ。一人を犠牲にして生き残るか、皆で死ぬか。二つに一つ。じゃあ、俺がやる事も一つだ。そうしなければならないと思った。そうする事が俺の役目なのだと。先ほど、可奈から吐き出された言葉で決意は固まった。

「先生、俺が、死にます」

俺の言葉に、先生を含めた全員が吃驚(きっきょう)して目を見開く。少し離れた場所では可奈が崩れていくのが見えた。けれど、振り返って抱き締めてあげることも、優しい言葉を掛けてあげることも出来ない。

「桂木、ええんか?」
「はい」

めいいっぱい虚勢を張った。

皆が気に病まないように。泣き出してしまわないように。それでも、千里だけは。俺の自慢の親友は、全部わかってるって顔で体当たりをしてくるものだから、こっちが泣きたくなる。

「セン、ごめんな」
「!!!」
「もう、決めたんや」
「……だ、だめや、怜!そんなの、僕は、」
「セン、ありがとう」

「れ…い……嫌や…」

震える肩を抱き、友の優しさを嚙み締めた。俺、幸せ者だなあ。