初めてリストカットをしたのは、忘れもしない中二の夏。
あの頃の私は、優しくて明るくて格好良い桂木君に恋をしていた。誰にも言えなかった小さな恋心。けれど、確かに咲いていた恋心。目が合うだけでドキドキして、些細なことでも言葉を交わせたら、身体の一部でも触れ合えば、それだけで一日中浮かれてた。
可奈から〝ある〟告白を受けるまでは。
「私、桂木くんと付き合うことになったんよ」
ジリジリと肌を焦がす日差しに目眩がした。頬を赤く染める可奈は素直に可愛いと思ったし、とても女の子らしかった。勇気を出せなかったのは他でもない私自身だ。だから仕方がない。そう、何度も何度も言い聞かせて、気持ちを押し殺した。
「……おめでとお」
ちゃんと、祝福の言葉になっていただろうか。
付き合いはじめた二人の初々しいやり取りを見るのは辛かったけど、深く関わらない事でどうにかやり過ごした。逃げていた、私。
そして、あの日。
可奈と桂木君が一緒に帰る、金曜日の放課後。いつもはそんな二人を見たくなくて、帰りのHRが終わると同時にすぐに帰っていたのだけれど。その日に限って担任から用事を頼まれてしまい、帰りが遅くなってしまった私は、そこで衝撃の事実を耳にする。
「―――――やな」
鞄を取りに、教室に向かっていた脚がピタリと止まった。
「桂木君を騙すの大変やったんやけえ。私こういうの苦手なのに」
「ごめんなあ、理恵。私どうしても怜くんを亜矢に取られとぉなかったんよ」
「桂木君が私に亜矢へ気持ちを伝えてくれって言うて来た時には、どうしようかと思ったわあ」
ねえ、どういうこと?
「協力してくれてありがとお。だって亜矢も怜くんの事、好きやったやん?両想いとか勝ち目なかったけん」
私の気持ち、知ってたの?
「桂木君に〝亜矢は好きやないけん付き合えんらしい〟って言うた時、私までハラハラしたんよ」
「ごめんって!でも、その傷心の怜くんにタイミングよくアタックして見事!彼女の座ゲットやけん!ほんまに理恵のおかげなんよ」
酷い、酷いよ。
あははと響く二人の笑い声を背に、私は走って逃げ出した。途中で桂木君とすれ違った気がするけど、顔を上げる事は出来なくて。
この日、初めて自分の手首を切った。
親友だと思っていた。何でも言い合える間柄だと思っていた。ああ、でも、最初に言わなかったのは私の方だね。私が桂木君の事を好きだって二人に言えていたなら、何かが変わっていたのかな。
自分の不甲斐なさと二人の行動に、吐き気がする。
女の子の友情なんて、脆くて崩れ易い。それに男の子が加われば、より拗れて悲惨なものとなる。よくある話じゃないか。私だけが勝手に、自分たちは大丈夫だと信じていた。何の根拠もないくせに。
それから狂ったように切った。切って、切って。あんな事をされても二人から離れられない自分。怒れない自分。責め立てられない自分。苛つくのに、一緒に居たくないのに、独りは嫌だという矛盾。
あの頃の私は、優しくて明るくて格好良い桂木君に恋をしていた。誰にも言えなかった小さな恋心。けれど、確かに咲いていた恋心。目が合うだけでドキドキして、些細なことでも言葉を交わせたら、身体の一部でも触れ合えば、それだけで一日中浮かれてた。
可奈から〝ある〟告白を受けるまでは。
「私、桂木くんと付き合うことになったんよ」
ジリジリと肌を焦がす日差しに目眩がした。頬を赤く染める可奈は素直に可愛いと思ったし、とても女の子らしかった。勇気を出せなかったのは他でもない私自身だ。だから仕方がない。そう、何度も何度も言い聞かせて、気持ちを押し殺した。
「……おめでとお」
ちゃんと、祝福の言葉になっていただろうか。
付き合いはじめた二人の初々しいやり取りを見るのは辛かったけど、深く関わらない事でどうにかやり過ごした。逃げていた、私。
そして、あの日。
可奈と桂木君が一緒に帰る、金曜日の放課後。いつもはそんな二人を見たくなくて、帰りのHRが終わると同時にすぐに帰っていたのだけれど。その日に限って担任から用事を頼まれてしまい、帰りが遅くなってしまった私は、そこで衝撃の事実を耳にする。
「―――――やな」
鞄を取りに、教室に向かっていた脚がピタリと止まった。
「桂木君を騙すの大変やったんやけえ。私こういうの苦手なのに」
「ごめんなあ、理恵。私どうしても怜くんを亜矢に取られとぉなかったんよ」
「桂木君が私に亜矢へ気持ちを伝えてくれって言うて来た時には、どうしようかと思ったわあ」
ねえ、どういうこと?
「協力してくれてありがとお。だって亜矢も怜くんの事、好きやったやん?両想いとか勝ち目なかったけん」
私の気持ち、知ってたの?
「桂木君に〝亜矢は好きやないけん付き合えんらしい〟って言うた時、私までハラハラしたんよ」
「ごめんって!でも、その傷心の怜くんにタイミングよくアタックして見事!彼女の座ゲットやけん!ほんまに理恵のおかげなんよ」
酷い、酷いよ。
あははと響く二人の笑い声を背に、私は走って逃げ出した。途中で桂木君とすれ違った気がするけど、顔を上げる事は出来なくて。
この日、初めて自分の手首を切った。
親友だと思っていた。何でも言い合える間柄だと思っていた。ああ、でも、最初に言わなかったのは私の方だね。私が桂木君の事を好きだって二人に言えていたなら、何かが変わっていたのかな。
自分の不甲斐なさと二人の行動に、吐き気がする。
女の子の友情なんて、脆くて崩れ易い。それに男の子が加われば、より拗れて悲惨なものとなる。よくある話じゃないか。私だけが勝手に、自分たちは大丈夫だと信じていた。何の根拠もないくせに。
それから狂ったように切った。切って、切って。あんな事をされても二人から離れられない自分。怒れない自分。責め立てられない自分。苛つくのに、一緒に居たくないのに、独りは嫌だという矛盾。



