一人、二人、三人、私を入れて四人か。
この状況で泣くでもなく騒ぐでもなく、棒立ちの人。黛君は転校してきた時から独特の雰囲気を持っていたから納得出来る。森君はどうしたのだろう。普段から淡々とはしていたけれど、喋る気配すらないのは異常だ。薫ちゃんは、彼女は特別だから仕方がないか。
「――っ、」
無意識に制服の上から左手首を握っていた。昨日切った傷がじくりと痛む。誰も知らない。誰にも言っていない。私の、秘密。
「亜矢ぁ、うちらどうなってしまうんやろう…」
ぽろぽろと大粒の涙を流しながら、腕に縋り付いてくるのは親友の理恵。とは言っても、私は親友だとは思っていない。
「私、死にとうない!嫌や!嫌やあぁぁ!」
今、この場で一番ヒステリックに泣き叫んでいるのは可奈。同じく親友という言葉を可奈にも使っているけれど、私はどうしてもそんな風には思えなくなっていた。心がささくれ、苛立ちだけが募る。
理恵も可奈も、小さい頃から一緒に過ごしてきた大切な幼馴染。幼い頃は本当に仲の良い三人組で、楽しくて幸せだった。
いつからだろう。違和感を感じはじめたのは。いつからだろう。上辺だけの友達なんじゃないかと疑いだしたのは。なんて、そんなの。もうずっと前から答えは出ていたのにね。私、知ってたよ。
「理恵、可奈、大丈夫やけん。きっと誰かが何とかしてくれる。それに、可奈には桂木君がおるやろう?」
「!!!」
私の言葉に、可奈は叫ぶ事を止めた。何て単純で愚かなのだろう。
「レイくん、怜くん!」
髪を振り乱し、なりふり構わず可奈は一目散に走り出す。そんな可奈の後ろ姿を理恵と見送り、私はもう一度手首を握った。
「……可奈、ええな」
理恵の迷い子のような呟きは、耳のなかで滑って消えていく。
「先生、トイレに行って来てもええですか?」
小さく頷く先生を確認し、私は一人で体育館の隅にあるトイレに向かって走った。ついて来ようとした理恵の手を振り払って。
「っ、亜矢…」
蚊の鳴くようなか細い声も、今度こそ完全に無視をした。途中で可奈と桂木君が一緒にいる姿が目の端に映ったけれど。もう何の感情も湧かなくなってる自分に気付く。それだけでもよしとしたい。
(早く、早く、早く!)
縺れそうになる足を叱咤してトイレの個室に辿り着くと、直ぐさま制服の袖をたくし上げた。白い包帯には赤黒い染みが出来ている。
「耐えられん…!」
震える指先で胸ポケットからカッターナイフを取り出し、一度だけ深く息を吸う。綺麗に巻かれていた包帯を雑に解き、既に傷だらけの手首に刃を押し付けた。ぷつり。肌に浮き上がる血液を見て安堵する。私は自分を傷付ける事でしか自分を保てない。
別に、死にたいわけじゃない。誰かに同調や、同情をして欲しいわけでもない。けれど、血を見ると安心する。赤い液体と共に、私の濁った感情が流れ落ちていくようでほっとする。
この状況で泣くでもなく騒ぐでもなく、棒立ちの人。黛君は転校してきた時から独特の雰囲気を持っていたから納得出来る。森君はどうしたのだろう。普段から淡々とはしていたけれど、喋る気配すらないのは異常だ。薫ちゃんは、彼女は特別だから仕方がないか。
「――っ、」
無意識に制服の上から左手首を握っていた。昨日切った傷がじくりと痛む。誰も知らない。誰にも言っていない。私の、秘密。
「亜矢ぁ、うちらどうなってしまうんやろう…」
ぽろぽろと大粒の涙を流しながら、腕に縋り付いてくるのは親友の理恵。とは言っても、私は親友だとは思っていない。
「私、死にとうない!嫌や!嫌やあぁぁ!」
今、この場で一番ヒステリックに泣き叫んでいるのは可奈。同じく親友という言葉を可奈にも使っているけれど、私はどうしてもそんな風には思えなくなっていた。心がささくれ、苛立ちだけが募る。
理恵も可奈も、小さい頃から一緒に過ごしてきた大切な幼馴染。幼い頃は本当に仲の良い三人組で、楽しくて幸せだった。
いつからだろう。違和感を感じはじめたのは。いつからだろう。上辺だけの友達なんじゃないかと疑いだしたのは。なんて、そんなの。もうずっと前から答えは出ていたのにね。私、知ってたよ。
「理恵、可奈、大丈夫やけん。きっと誰かが何とかしてくれる。それに、可奈には桂木君がおるやろう?」
「!!!」
私の言葉に、可奈は叫ぶ事を止めた。何て単純で愚かなのだろう。
「レイくん、怜くん!」
髪を振り乱し、なりふり構わず可奈は一目散に走り出す。そんな可奈の後ろ姿を理恵と見送り、私はもう一度手首を握った。
「……可奈、ええな」
理恵の迷い子のような呟きは、耳のなかで滑って消えていく。
「先生、トイレに行って来てもええですか?」
小さく頷く先生を確認し、私は一人で体育館の隅にあるトイレに向かって走った。ついて来ようとした理恵の手を振り払って。
「っ、亜矢…」
蚊の鳴くようなか細い声も、今度こそ完全に無視をした。途中で可奈と桂木君が一緒にいる姿が目の端に映ったけれど。もう何の感情も湧かなくなってる自分に気付く。それだけでもよしとしたい。
(早く、早く、早く!)
縺れそうになる足を叱咤してトイレの個室に辿り着くと、直ぐさま制服の袖をたくし上げた。白い包帯には赤黒い染みが出来ている。
「耐えられん…!」
震える指先で胸ポケットからカッターナイフを取り出し、一度だけ深く息を吸う。綺麗に巻かれていた包帯を雑に解き、既に傷だらけの手首に刃を押し付けた。ぷつり。肌に浮き上がる血液を見て安堵する。私は自分を傷付ける事でしか自分を保てない。
別に、死にたいわけじゃない。誰かに同調や、同情をして欲しいわけでもない。けれど、血を見ると安心する。赤い液体と共に、私の濁った感情が流れ落ちていくようでほっとする。