生け贄、独り。

――黛邸、浩輔の書斎。

未だ整理されていない机の上には、一台のパソコン。そのパソコンが静かに音を立て、起動していることには誰も気が付かない。

〝最後にもう一つだけ〟この文章から始まるメールがあったことをユキトは知らなかった。ユキトだけじゃない。母も兄も、誰も。



>>私は夢でも見ているのだろうか。見てはならないものを見てしまった。あれは何だ。調べた話では少女は一人だけだったはず。けれど、確かに二人いた。もう一人、同じ顔の少女がいた。夢であって欲しい。夢でなければ、恐ろしい。ああ、まるで悪夢だ。




























朱殷(しゅあん)に染まる、珍しい色彩を魅せる大木の上に一人の少女。

「火傷の痕が消えないなあ」

腕に広がる赤い痣を撫でながら少女は舌打ちをした。どうにも機嫌がよくないようだ。それもその筈、彼女は殺されかけたのだから。

「試作段階で()られそうになるとか有り得なくない?しかも!オバサンの心臓とか萎えちゃうんですけど。ねえこれ一年ももつの?」

足を交互にブラブラとさせ、少女は悪態を吐く。そして、それに答える者の姿が、ゆらりと舞い散る桜の花弁と共に妖しく揺れた。

「仕方がないですよ。あの時は、ああするしか方法がなかったんですから。これでも相当頑張ったんですよ、俺。……それにしても、オリジナルの蛍様もそんなにキツイ性格だったのですか?」
「はあ?アンタ失礼ね。私は、ワタシ!〝私〟が蛍なの!」

木の枝を折って投げつける少女に、こんなにも暴力的ではなかっただろうと思いながらも男は笑みを深めた。スペアだって関係ない。

この最高傑作が〝生きて〟自分の元にいるのだから。

「来年まで我慢して下さいね?」

桜の花びら、ひらり、ひらひら。

「そうすればきっと、蛍様の思うがままに」
「ァハ、ほんとお?期待してるわ、――梶!」

永く雪の下で隠れていた泥土(でいど)の上を、埋め尽くす赫い、紅い、