新春。

「ちーちゃん!」

溌剌(はつらつ)とした爽やかな笑顔で名前を呼んでくれるのは、薫ちゃん。今日はお花見と、新しい制服のお披露目会と、――そして。

「薫ちゃん、早いなあ」
「や、もう楽しみで待ってられんかったんよ」

あの日、薫ちゃんのお母さんは洞窟から出て来なかった。

私ならきっと耐えられなかったと思う。けれど、薫ちゃんはジッと燃える洞窟を見つめ、最後まで目を逸らすことはなかった。

「浅田と桜木が一番やな」
「おー!カツラっちにヤナ!」

彼女は今までの鬱憤を晴らすかのようにとても明るい。勿論それが作り物だとも思えず、本当に強い人だなと思った。

「なん?その呼び方」
「ふは!かわゆーない?」

男子とも気負うことなく自然に打ち解けている天真爛漫な薫ちゃん。これが本来の、彼女の姿だったんだね。

「薫ちゃん、そんなにテンション高こうて最後までもつん?」
「んー、今まで話が出来んかったけんね。よっけ喋りたいんよ!」

私も、桂木達も、目をぱちくりとさせた。そっか、そうだよね。
 
「ちゆきちゃーん!お花、買うて来たよ」
「ありがとう、亜矢ちゃん」

少し遠くの方から声を掛けてくれたのは、亜矢ちゃん達三人組み。そして、亜矢ちゃんの声に桂木君の肩がぴくりと揺れたのを私達は見逃さなかった。獲物を狙う目で、薫ちゃんと二人ニヤつく。

「……なん?」
「べっつにー?なんでもないけど、ねえ薫ちゃん?」
「ねえー、ちーちゃん」
「お、待って待って!面白そうなにおいがする!」

からかう私達に、柳君も悪ノリをする。桂木君は一人そっぽを向いて照れていた。近付いてくる亜矢ちゃんも、可奈ちゃんと理恵ちゃんにからかわれているみたいだ。ほんと、似た者カップルだよね。

元々、仲の良いクラスだったとは思うのだけれど、今はそれ以上にどこか〝絆〟のようなものを感じていた。こうやって、ふざけ合って。笑い合う日々がいつか、なによりの宝物になると思う。

「ねえ、ちーちゃん」
「ん?」
「私、皆と同じクラスでほんまに良かったって思うんよ」

泣かせるようなこと、言わないでよ。私も同じ気持ちだよ。

「わり、遅れてしもうた」

零れ落ちそうな涙を引っ込めてくれたのは、意外な二人。

「清宮君!黛君!」