私は何の為に生まれてきたのだろう。

ただ、普通の幸せが欲しかった。こんな事、望んでなんていなかった。特別な力も、特別な家柄も、特別な扱いも。そんなもの何一つ要らなかった。どうしてこんな事になってしまったんだろう。ただ、普通の女の子で在りたかっただけなのに。

『早く、私を殺して下さい』

今の願いはたったそれだけ。









戦後、とある村での出来事。

「…ゆ、許し――ぐギィ!」

その男、斧を片手に村人を次々と惨殺していった。酷い臭気をそこかしこと撒き散らし、月明かりのもと浮かぶのは、鈍い光とまだ生温かいであろう血溜まり。

「これは、罰だ、お前達、絶対に、許さない、呪って、やる」

「ひっ、ひいいい」
「後生だからやめてくれぇ!」
「儂らが悪かった…!」
「た、頼む、どうか…ッヒぐ!」

男の手は止まる事を知らない。白衣はもう何色なのかさえ解らない程に血と泥で汚れ、顔はまさに鬼のようだった。

「生け贄を、用意、しろ」

心臓を一突き。鯨の潮吹を髣髴(ほうふつ)とさせる夥しい量の鮮血が、勢いよく吹き出して男の顔にかかる。それでも男は瞬き一つしなかった。

「お前らの、子供、十五に、なったら、差し出せ」

紅い血を滴り落としながら男は言う。

「毎年、毎年、差し出せ」

グチャリ。男の手から離れた斧が、既に(むくろ)と化した〝誰か〟の顔を無惨にも潰した。その無慈悲な音に、残り少なくなった村人達は息を潜めて戦慄(わなな)く。ああ、きっと、もう、逃げられないのだろうと。

「ほたル、ホタる、ホタル、ホタルホタルホタル、蛍…」

呪詛というよりは耽美(たんび)な、けれども感情を欠落させた抑揚のない声。薄暗い、(ひとみ)。其処へ宿るものとは一体何だったのか。

「父さんが、助けて、やる」

梅雨目前の、
蛍が飛び交う幻想的な季節の惨劇は未だ公にされてはいない。