生まれる前から、きっと決まっていたのだ――そんな思いがふと胸をよぎった。
 何故だろう……と、妙なデジャ・ヴを感じていた。


「奈美…お前、どうし…っ」
 愛しき彼の言葉は、一度そこで途切れた。
 私の両手は生温かい赤黒い液体で塗れている。
 それはどうしてなのか――私自身が一番良く知っていた。
 私の左手には、鋭く光るナイフ。
 そのナイフが、確実に彼の命を奪いつつあった。
 特有の生臭い臭いが、嗅覚を強く刺激してくる。

「…が、はっ!」
 足元に崩れ落ちた彼が、身体をビクンと痙攣させて、赤黒い塊を吐き出した。
 彼の息は、あと何分ともたないだろう。
 けれど私は、そんな彼を目の前にして不思議と冷静だった。
 何故なら私がこうしたのに理由があって。
 彼がこうなったのには、彼に原因があるのだから……。