歩き出すあたしの背中に、心配そうに呼び掛ける。


振り返り、黙って頷くとペコリと頭を下げた。


あたし…、『やだ、やだ』って子供みたいに駄々を捏ねて、現実から目を逸らしてた。


そんなんじゃダメ。

あたしが、こんな風だから鳴海は言えなかったんだ。



鳴海は凄いや…。


受け入れたくない現実を突き付けられてるのは鳴海なのに、


辛いのは、あたしなんかじゃなく、鳴海なのに、地に足を付けて頑張ってる。


将来や未来だって、しっかり捉えてる。


その手にあるのは、澄んだレンズの望遠鏡。


顔を上げると先生が静かに見つめてた。


「お前なら大丈夫だろ、乗り越えてくれよ、

そして、アイツを支えてやってくれ」


ねぇ先生?

先生の顔にだって、そう書いてるよ。


あたしは、煙草の煙が細く流れて上るデスクの間を急ぎ足で通り抜けた。