大きなため息をつく。
もうそろそろ日付が変わる頃だろうか。酔いはまだ醒めきっていない。


今度こそ家へ帰ろう、そう思い立ち上がろうとしたとき、不意に上から声がした。



「おじさん、お金もってる?」



誰だ?ああ、酔っ払いから金をせしめようっていうチンピラかな、きっとそうだ。

ジョンは頭痛のする重い頭をあげた。しかしそこには予想とは大きく外れた人物。

チンピラかと思っていたが、ガキだった。
14、5歳くらいだろうか。
大きめのキャスケット帽を被って、白いワイシャツ、サスペンダーのついたショートパンツ、膝まである黒のソックス。
顔はよく見えない、帽子を深くかぶってるから。
ジョンは職業柄、相手の容姿を一瞬で観察することは得意だった。



「なァんだ、ただのガキじゃねぇか・・・こんな夜中に何やってんだ?」
呂律が回らない。今の俺はさぞカッコ悪いだろう、最低だ。

「いいから、お金持ってるならくれない?」
「・・・っ、」
なんと驚くべきことにそのガキは俺の腹にいきなり蹴りを喰らわせたのだ!
普段の俺なら当然避けるなり何なり出来ただろうが、吐くまで飲んでしまった俺にはそんな事が出来なかった。
激しくせき込む。くそ、また吐き気が・・・


しかしよく見るとガキの足はほんの少し震えていた。
ははあ、このガキ、カツアゲしてみるのは初体験、ということか?
少し懲らしめてやろう。世の中そんなに甘くねえってことを思い知らせてやろうか。


俺はなるべく鋭い眼光でガキを睨みあげ、立ち上がった。(酔っていたのでカッコよくキマったかはわからないが)

ガキは突然のことにびくっ、と体を震わせ狼狽の色を隠せない様子だった。
間髪入れずに、俺はさっきのお返しと言わんばかりに蹴りをガキの腹へ入れた。鳩尾だ。こいつは効くだろう。

「っ・・・!ぁ、」
案の定、ガキは数メートル吹っ飛んだところで腹を押さえ蹲り、きゅっと目を瞑ってくるしそうに息をしていた。

先程まで被っていたキャスケット帽も何処かへ飛んだらしい。
ガキは俺の汚い茶髪とは違い、綺麗な金髪だった。顔立ちも中々良い。