吐きたい!気持ちが悪い!

深夜。ジョンは店を出、その途端に吐き気に襲われた。
すこし飲むだけ、そう思って店に入った筈だった。しかしこの有様。金を全て使ってしまった。
それだけじゃあない、金が足りなくなってツケてもらってまで飲んだのだ。
我ながら情けない。足が言うことをきかず、ふらつく。


ジョンは狭い路地に入り、そこへ座り込んだ。
表の通りの街灯がすこしだけ暗い路地に光を差し込ませていた。



ジョン・フリングス、俺はなんてダメなやつなんだ。

ほんとうに俺はどうしようもない、ロクデナシだ。

だから俺は一人になっちまった。
妻のアンナには二年前に出て行かれてしまった。
ああ、あれからもう二年も経つ。
あの夜・・・二年前のあの夜、俺は依頼人から頼まれた仕事を糞真面目にやっていたのだ。アンナの誕生日をすっかり忘れて!
それが切っ掛けだった。それから、俺達二人の歯車みたいなモンが、こう、ずれて噛み合わなくなってしまったのだ。
探偵だなんて、下らない仕事はじめなきゃあよかった。ロクに金も入ってこない、失敗は多い、ついでにアンナまで失ってしまった。
こんな仕事のせいで、今も貧乏暮らしだ。



酔っているせいなのだろうか、悪いことばかりが頭をいっぱいにする。ちくしょう。ちくしょう!
ジョンは左手の薬指に光るシルバー・リングを眺めた。そこに刻まれているのは、ジョン・フリングスとアンナ・フリングスの文字。




再び吐き気が込み上げてきて、ジョンは咳きこみ、吐いた。

そのまま暫く、狭い路地で座り込み蹲っていた。
吐き気も引き、落ち着いてきたところでジョンは無意識のうちに右ポケットを探っていた。煙草がない!
ああ、そうだマークに・・・・・・俺は何をやっているんだろう。本当に。