「そうだな、そのうちな」

しかし彼は喫煙を止めるつもりなどない。彼のいう「そのうち」は永遠に来ないのだ。

ジョンは診察室の窓の近くへ行くと、ジャンパーのポケットから煙草の箱を取り出した。

「おいジョン!言ったそばから吸うつもりかい?!しかもここは病院だ!」
まったくこの男は!
マークはジョンから乱暴に煙草の箱を奪い取った。

「なにするんだ、返してくれないか?」
「この煙草は僕が預かっておくよ」
「勘弁してくれ、最近仕事の依頼もなくて煙草も買えない」
頼むから返してくれ!手を合わせて頼んでみてもこのひねくれたドクターには通用しない。(ジョンも相当ひねくれた男だが、本人は全く自覚を持っていないようだ)

「そうかい。よかったね、良い機会じゃないか。このまま煙草をやめるべきだ。
さあ、右のポケットに入ってるマッチも出してね、ジョン?」

にこり、とマークが恐ろしい笑みを浮かべた。
こうなったらもう、マークは手がつけられない。
マークと付き合いの長いジョンはそれを悟り、さっさとあきらめて右のポケットから
マッチ箱を取り出してマークに手渡した。
しかも何故右のポケットにマッチが入っていることをコイツは知っているのだろう!

「お前、俺よりずっと若い癖にずいぶんと図太い野郎だな」
「君は僕よりずっと年上の癖にずいぶんと子供っぽいところがあるよね」
マークはジョンから取り上げた煙草とマッチ箱を散らかったデスクの上に置き、
しっかりとジョンの目を覗きこみ続けた。
「いいかい、ジョン。みんな後から後悔するんだ。煙草なんか吸わなきゃよかったってね」
「俺はいつも後悔してばっかりさ。今更ひとつ増えたってなんともない」
「ああ、これだから君はオヤジの癖にガキなんだ!」



ジョンがマークの口から弾丸のようなスピードで出てくる小言を全て聞き終わったときにはもう、オレンジ色の夕焼けが西の方へ追いやられてしまっていた。