「ね、貴斗?」
オカンの1歩後ろを歩く。
「…なんだよ」
「どうして迷ってるの?」
聞かれると思った。
できることなら、自分で答えを見つけたかったのに。
「高校生になったら…バイトして、オカンを少しでも楽にしてやれるかな…って。
だから、陸上辞めてバイトしようかな、って思ってる。
でも、陸上を続けたい、ってキモチもある。」
俺はオカンにどうも弱い。
オカンの背中を見つめていると、
あの日…親父が家を出て行った日の夜、真っ暗なリビングで必死に声を押し殺して泣いているオカンの背中を思い出した。
「貴斗…お母さんは、その言葉だけで十分」
オカンは足を止めることなく、歩き続ける。
「親孝行はもっと大人になってからしてくれればいいから。
だから…陸上、続けなさい。
家のことは心配しなくていい。
陸上…好きなんでしょ?」
オカンは振り返る。
いつもの、笑顔。
「……俺、続けるわ」
たまにはオカンの言葉に素直に従ってみるのもいいかな、なんて思ったりして。

