「おい!湧井!」



「……あ、山ちゃん」


あたしの名前を呼んだのはクラスの担任で陸上部の顧問、山本先生。

通称山ちゃん。



「何ぼーっとしてんだよ。

お前もさっさと走れ!」

先に走り終えた夢大とアキがニヤニヤ笑っている。



「いや、湯川くんのフォーム、キレイだな…って。」


そういうと山ちゃんの目の色が変わる。



「そうだな。

さすが湯川だ。」


ってその口ぶり、なんか知ってそうじゃん。



「マジだ…アイツの走ってる姿、カッコイイな」


夢大が横に来て言う。



あの走り方。

『湯川貴斗』という名前。


絶対あたし、知ってる。


記憶の引き出しを探る。



「山ちゃん。湯川くんって、何者…??」


そんなアキの声が聞こえてきた。


湯川…貴斗。

湯川…たか、と?



「南第三中 長距離男子エース。
県大会2位 湯川…貴斗」


思い出した。


そうだ。

湯川貴斗、あの湯川貴斗だ。