浮舟は、その日を境に変わってしまった。無一郎に文を届けても「返事」が貰えないので、大嫌いな茄右衛門に「来てくんなまし」と書き送る。けれども、今度は不二鷹屋が一人で来るものだから機嫌が悪い、悪い。

 だから次に無一郎が姿を見せるや、晴々した顔で迎えて、やつれた顔貌ながら、生き活きしてくるさまが、あまりにも艶めかしく、その豹変振りが露骨に過ぎて、さすがの茄右衛門でも意地が悪くなろう。

 主の行き来に

 見返り柳

 まつ風や凪ぎ

 首尾の松

 都々逸ドイドイ 浮世はサクサク


 こんなに懸想されていながら、無一郎は、どうにも愛情を覚えないのだ。美しいと思い、可愛く思いながら、どうも手が出せないのだ。「据え膳喰わぬは」と、太鼓持ちの伝助に唆されるが、やはり抱く気に成れなかった。この幸薄き美人を引き受けるだけの甲斐性も無かった。


 くりゃれくりゃれ

 けそうの文を

 もし、貰えたら

 仕落ちする…

 都々逸ドイドイ 浮世はサクサク


 時が経つほど、懸想が強まってしまうのに、男は、その逆に冷めていく。廓芸者の姐さん連中も冷やかしたり、心配したり、深刻の度を増しているようだった。それにしても…次から次に「節」が湧いてくる。そして、赤裸々に「仕落ちする」なんて遊女にあるまじき敗北を「承知」してしまうとは・・・・・・