「あ、亜実 顔赤いよー?」


愛がニヤニヤ笑いながら私の顔を覗き込んできた。


「別に赤くなんかなってないよっ」

「嘘だー!真っ赤だって」


愛にからかわれていると、店のドアが開いた。


「こんにちは」


杉本さん、だ。



「いらっしゃいませ」


私の声と愛の声は見事に重なった。

杉本さんはそれを聞いて笑っていた。


「今日は何のお花を見にいらっしゃったんですか?」


私がそう聞くと彼は笑いながら答えた。


「今日はちょっと華原さんに用があって」


心臓が、高鳴った。


私に用?

隣で愛がニヤニヤしているのが見えた。


「何ですか?」


そう尋ねると彼はレジへと歩いてきて、


「ミセバヤ、って花知ってますか?」


そう言った。


「ミセバヤ…ですか?」


知らない。
名前は聞いたことがあるような気がするけれど、詳しくは知らない。

隣では愛も首を傾げていた。


「ミセバヤは香川県の小豆島で咲いている花なんです」


彼は綺麗な笑顔で話し始めた。


「綺麗で可愛らしい花なんですが、最近では絶滅危惧種に認定されてるみたいで」


彼の笑顔は少し悲しいものに変わった。


「そうなんですか…」


綺麗な花が絶滅してしまうのは、すごく、悲しいことだと思う。


この世から花の種類が一つ減ってしまうという事なのだから。