彼が初めて店に来た日から1週間が経った。
なぜか私は彼のことばかり考えている。
名前も知らないあの人が気になって仕方がないのだ。
出来ればもう一度、会いたい。
「亜実」
「………」
「ねぇ亜実!!!ちょっと!」
「…あ、え?なに?」
愛に呼ばれていたのには全く気付かなかった。
愛は苦笑していた。
「亜実最近よくぼーっとしてるね、何か考え事?」
「…いや、考え事ってほどじゃないんだけど」
「恋でもした?」
「…いや、それは違うけど」
彼のことが気になるのは気になるのだけれど、恋とは違う、はず。
愛は、なんだつまんないのー、と言いながら例のミニうちわを取り出した。
ジーンズのポケットに入れていたらしい。
「そういう愛は?何で彼氏作んないの?愛のこと狙ってる男の子いっぱい居るでしょ?」
「うーん、何でだろう?なかなか理想の人には出会えないみたい」
もったいないなぁ。
と本当に思う。
「それにしてもほんと暑…あ、いらっしゃいませー」
うちわをパタパタさせながら愛は言った。
一人のお客さんが入ってきた。
「……あ…っ」
「ちょっと、亜実!いま入ってきた人かっこよくなかった?」
隣で愛が声を潜めながら言った。
そうだね、と返事を返す余裕はなかった。
彼、だ。