夕暮れの窓に映る自分の顔に気付いて、わたしは色つきのリップクリームをポケットから出した。


『少しでも綺麗になりたい』


そう思うのは女の子なら誰でも抱く気持ち。


好きな人の前では、誰でも綺麗なチョウチョになりたい。


もう一度ポケットの中に手を入れて、手鏡を取り出した。


手鏡を開いて、リップクリームの紅い色をそっと唇にのせた。


唇が紅く染まった時、鏡の中にまた知らないわたしがいた。


『その口の色、似合わねえ』


不意に以前大野に言われた言葉を思い出した。


わたしは取り出したティッシュに唇の紅い色をそっと移した。


「んー……なかなか落ちないなぁ」


色づいてしまった唇は、もう何もなかったようには戻らない。