奈都は直ぐに家に帰ろうとするのに、今日は中々帰ろうとしない。


家に帰って、琢哉さんと顔を会わせたくないのだろうか。


「うちに帰らなくて大丈夫か。」


奈都はうつむいたまま。


「帰っても家には誰もいないから、遅く帰っても平気。」


帰りたくないなら、俺に良い考えがある。


「うちに泊まって行けよ。今日明日はおふくろと親父帰ってこないから大丈夫だ。」


子供置いて、本当に呑気な親だと思う。


「又二人で温泉なのか。」


温泉旅行年に何回行く気なんだろ。


とにかく仲の良い夫婦なんだよな。


「町内のくじ引きで、温泉旅行に当たったらしいよ。」


笑えるだろ。


思わず顔がにやける。


「両親が仲良いってなんかいいよね。うちの母親は結婚せずに姉と私生んでるから、父親ってどんな感じなんだろう。いつか父親に会ってみたいな。」


奈都の母親は何を考えてるんだ。


奈都に寂しい思いばかりさせて。



「いつか親父に会えるといいな。」


ありがとうって奈都が微笑む。


今の俺はそんな事しか言ってやれないけど、近いうちにきっと会える気がしたんだ。


本当にそう思えたから。


奈都が又笑った。