ナツの誘惑





細い山道を登って行くと、鳥居を越えた向こうには人の気配のない展望台が見えた

特等席…

オレたちが普通のカップルなら、そう喜んだに違いない




「結構急だね…疲れちゃった。掴まっていい?」




祭りのにぎわいが遠ざかれば

さっきまでは人のざわめきで消えていた蝉の鳴き声が、またどこからか聞こえてくる



あの夕暮れ時よりはっきりと

本能をさらけ出したようにその声を響かせる




「ねぇ緒斗くん、蝉ってなんで鳴くか知ってる?」


「さぁね。雄が雌を呼んでるんじゃなかった?よく知らないけど」


「うん、でも普通は昼間にしか鳴かないでしょ?でも時々あんな風に夜に鳴く蝉がいるの。なーんでだ?」




色気を出して男を誘うような女には到底見えないほど、那都は純粋な顔でオレに問いかけてきた

目を丸くして、口元に白い歯を浮かべながら喜んで



こういう仕草に
篤志は惚れたんだろうけど



オレが見たいと望んでたのは

この那都じゃなかった