「桜子」
朝食が終わり、お茶を飲んでる一海さんにまた名前で呼ばれた。
「は、はい!」
食器を片付けていた手が止まる。
「今日の夜、二階堂家に行く。お前もついて来るように。いいな」
二階堂家に?
何で?私が?
私の頭に美乃さんの顔が浮かぶ。
複雑な思い……。
“チクチク”と針で刺されたように痛む胸。
「どうして?私が……」
「お前は俺専用の女中だって言ったろ?」
「行きたくない……」
ため息を吐くようにそう言った。
「ワガママは許さん。俺の命令は絶対だと言ったはずだ」
わかってる。
わかってるよ……そんなこと言われなくても……。
でも……。
私の目に涙が溜まる。
それを見られないように下を向きながら片付けをした。



